スピード戦略を実現するナレッジマネジメント──マーケティングと融合する情報化戦略としてのKM(その2)情報マネージャのためのナレッジマネジメント実践講座(5)(2/2 ページ)

» 2004年07月22日 12時00分 公開
[加治 達也,@IT]
前のページへ 1|2       

スピード戦略の実践には「フローのナレッジ」が不可欠

営業部門には「フローのナレッジ」を活用したスピード戦略が必要

  自社の戦略の性質(戦略論の定番『競争の戦略』(マイケル E.ポーター著)に基づく。前回記事参照)が、「コストリーダーシップ戦略」と「差別化戦略」のどちらであってもアドオンできる戦略がある。それはスピード戦略だ。

 営業部門におけるナレッジマネジメントの重要なテーマは、前述のストックのナレッジの基盤を作ることとともに、「フローのナレッジ」を活用したスピード戦略の実践である。

 しかし、注意しなければならないのは、自社内ですら「今日においては、 どのような情報であっても手放しに共有することはできない」という現実だ。つまり、情報公開を進めつつも、その対として守秘義務や各種法令、マナーなどとのバランスを考慮しなければ、情報共有の基盤自体が危うくなってしまうのだ。自社の情報管理基本方針や各種ガイドライン、徹底したルール化が欠かせない。

再び脚光を浴びているSFA

 これまでも、SFAやBIがスピード戦略を実現するツールとして注目され、 さまざまな改良がなされてきた。近年SFAツールは、キャッチフレーズとしてCRMを掲げて機能強化や販促を行っており、企業の導入自体も加速している。CRMという考え方の下でSFAの導入を進めるのであれば、営業における顧客とのリレーションシップの構築が焦点となる。

 リレーションシップが築けているかどうかの判断材料は、顧客生涯価値の最大化にある。端的にいってしまうと、リレーションシップを築けていない場合、自社の利益を生む「顧客」を創造するために、その都度多大なマーケティング投資が必要となる。リレーションシップが築けていれば(顧客がリレーションシップを意識していなくとも)、自社の利益につながる顧客へのアプローチが容易となり、マーケティング投資が少なくなるため、利益の確実性が高くなる。

 つまり、リレーションシップ構築に立脚するSFAとは、顧客が利益を生む機会 を“点”で計測するのではなく、連続性を重視し時間軸を持った“線”で理 解しなければならない。CRMという概念と同様に長期的なROI(マーケティング 投資コストと利益との関係)を重視するものになってくる。

システム部門が積極的に関与できない領域でもある

 一方、導入検討が長期化する企業の多くは、いざSFAの導入を検討してみても、ステークホルダーが多いことや、すでにあるシステムとのコンフリクトなどが原因となり、検討が進まず、いまひとつ次のステージへ踏み出せないことも少なくない。

 しかも、自社のビジネスへの強い理解が求められることから、システム検討フェイズでは、システム部門がシステムの適合性を100%理解することは難しい。そのため、検討項目の多くを利用者任せにし、技術的なサポート役に回ってしまう傾向が強いのが現実だ。しかしそうではなく、ITの側面から、自社のビジネス領域に対する企画提案を積極的に行っているシステム部門では全く異なった結果が出ている。

 前述のとおり、SFAやBIを導入する際は、自社のビジネスに対する理解力が相当量必要となる。しかし、スピード戦略に必要なものは、「意思決定と執行のスピード」であり、少なくとも自社の競争優位の戦略の性質を理解できていれば、IT(情報システム部門)の側からでも、自社の戦略にマッチするスピード戦略を企画提案できるはずなのだ。

「フローのナレッジ」におけるシステム設計の最適解とは

 自社の競争優位を明確化し、さらに武器として資産化できていれば、利益につながる最適な意思決定と執行を行えることになる。すなわち、「意思決定はロジカルに」「執行はより具体的に」と変化する。

 そこで意思決定と執行を助けるシステムの設計を考えていくわけだが、すべての情報を均一にマネジメントしようとすると極端に難しいものとなる。例えば、営業マンの1日の行動の中から、意思決定に役立つ情報を探し出し、それに対するフィードバックとして執行を行うシステムもあるが、これはステークホルダーの1人である、営業部門のマネージャに高い負荷を強いることになり、非効率的だといえる。あまり細かく監視するような方法(=営業マンの管理)では、やがて実行されなくなり、使われないシステムとなることも懸念される。

 また、「営業プロフェッショナルとは何か」が定義されていない企業の営業 部門では、営業マンには多くの自由(裁量)が与えられていることが多く、 営業マネージャは部下を管理したいと常々願っている傾向にあるようだ。この ため、SFA導入プロジェクトが動き出すと、管理的欲求が強く出て、営業マン の監視が目的化してしまう。

 過去のSFAが失敗した原因の多くはここにあった。つまり、スピード戦略としてのSFAでは、目的は管理ではなく、スピード感のある「意思決定と執行」である。フローのナレッジを新鮮な状態で活用できるかが鍵なのだ。

「入力する意味を利用者が感じられるか」を確認する

 あえて断言するなら、「情報は、活用されることを前提に入力されるべき」と割り切ってシステムを構想すべきだろう。「こんな機能があったら……」と一握りの管理者の理想や欲求が、やがてエゴになっていくことがある。

 まずは、「営業マネージャが、情報やナレッジをどういうタイミングで意思決定と執行に活用するのか」、そして「入力者にとって、どんな意義や意味(入力に対するやりがい)があるか」を考察することを原点にすべきだ。

 確かに、今日のSFAツールも進化しており、さまざまな機能が実装されているが、そこから価値あるナレッジを探そうと思うと、実は非常に苦労する。スピード感のある「意思決定と執行」のためには、価値ある情報やナレッジを効率よく見付けだせることこそが、営業マンの行動を網羅することよりも重要だ。

 以上のように、フローのナレッジもストックのナレッジと同様に、その性質に基づいた活用方法を確立する必要がある。大切なのは「最適な人へ、最適なタイミングで、最適なナレッジを提供すること」を考えることである。

 現在、当社電通ワンダーマンのナレッジマネジメント・チームでは、前述の考え方を踏まえ、独自のナレッジマネジメント理論を構築し、フローのナレッジとストックのナレッジを蓄積・活用できるシステムを企画設計/開発している。機会があればご紹介したい。

この記事に対するご意見をお寄せください managemail@atmarkit.co.jp


Profile

加治 達也(かじ たつや)

株式会社電通ワンダーマン

SIerなどを経て株式会社電通ワンダーマンに。同社のナレッジマネジメント部門専任のSEとして、組織の立ち上げ時より従事。現在はCRM、ナレッジマネジメントを中心に、コンサルティングおよびシステム開発・構築などを担当している。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ