さて、ここまでで、業務バリエーション、作業の大きさ、時間という3つの観点から新しい業務フローチャートの発想法を説明してきた。
では、新発想の業務フローチャートの作成にかかる時間はどの程度だろうか? 従来の発想で、表現の制約から、作業の粒度を大ざっぱに決めていた場合に比べ、粒度を具体的に設定するこの手法は、より時間を要するように思えるかもしれない。
従来の手法を使いこなすには、描画など使用するソフトウェア、ルールに関する高い知識や技能が必要になる。専門家や得意な人には、そう高度なものとは思えないかもしれないが、「現場の担当者の大部分ができる」というレベルのものではなかったはずだ。プロジェクトなどの時間の制約があるため、業務フローチャートを作成するのはコンサルタントなど手法に熟練した人に任せて、その人たちが現場の担当者からヒアリングするという進め方を採用してきた企業が多いであろう。
一般的にコンサルタントなどがヒアリングをして、業務フローチャートを作成するのは「高いが早い」と考えられがちだが、どうだろうか? 前提条件を変えて、もしも、現場の担当者でも使いこなせる手法を採用し、現場の担当者に業務フローチャートの作成を任せることができるとしたら? その場合と比較してどうだろうか? 実はコンサルタントに任せるのは、現場の言葉を翻訳するという手間を掛けていることになるので、決して早くはない。
作成作業の二度手間もある。実際には、一度のヒアリングで、モレや誤解がなく、実態を把握できることはまずない。業務フローチャートができた後、それを見て初めて、モレや誤解が分かることも多い。従来の描画主体の手法では、小さな修正でもその部分だけではなくほかに影響するので、全面的な描き直しになり得る。時間的には完全な二度手間にはならないまでも、「1.5度手間」以上にはなるであろう。修正要望の期限を決め、修正作業を効率化しようとしても、そううまくいくものではない。情報をぎっしり盛り込むために高度な技を駆使するほど、手間も大きくなる。もしも、描き直しの時間を正確に把握できるとしたら、想像以上に膨大な時間的ロスになっているのではないだろうか。
その点、新発想の手法は、「誰が」「何を」「どうする」という定義された作業を、機械的に積み上げていくことでできるため、現場の人でも簡単に習得できる。作成の場面ではコンサルタントのような特殊な技能を持った人を介することがなく、実は、想像以上に早くできるのだ。作ったものを見て、自分でモレや誤解に気付いて修正するのも簡単である。試行錯誤しながら完成度を上げることができる。図式化すると、
(作成方法を学ぶ時間)+(担当者が自らやっていることを記述する時間)
<(コンサルタントに説明する時間)+(コンサルタントが記述する時間)
となる。
すでにこのような手法に基づく業務フローチャート作成は、業務改善や日本版SOX法対応に適用され始めており、われわれの経験では通常の半分以下の時間で作成できている。
これまで4回にわたり、「新発想の業務フローチャート作成術」というタイトルのもと、業務フローチャートの課題を考え、その解決策を考えながら新しい業務フローチャートの定義を進めてきた。
最終回の第5回では、作成された業務フローチャートを、日本版SOX対応のためではなく実業務に役立たせることで、法対応のコストを、実ビジネスへの投資に転換することができないかを考える。
松浦 剛志(まつうら たけし)
株式会社プロセス・ラボ 代表取締役
京都大学経済学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)審査部にて企業再建を担当。その後、グロービス(ビジネス教育、ベンチャー・キャピタル、 人材事業)にてグループ全体の管理業務、アントレピア(ベンチャー・キャピタル)にて投資先子会社の業務プロセス設計・モニタリング業務に従事する。
2002年、人事、会計、総務を中心とする管理業務のコンサルティングとアウトソースを提供する会社、ウィルミッツを創業。2006年、業務プロセス・コンサルティング機能をウィルミッツから分社化し、プロセス・ラボを創業。プロセス・ラボでは、業務現場・コンサルティング・アウトソースのそれぞれの経験を通して培った、業務プロセスを理解・改善する実践的な手法を開発し、研修・コンサルティングを提供している。
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