プロジェクト管理は「簡単なことを、確実に」やる気を引き出すプロジェクト管理(2)(2/2 ページ)

» 2008年03月03日 12時00分 公開
[安達裕哉,トーマツ イノベーション]
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仕事の設計を行う

 プロジェクトの成果が設定できたら、次に行うべきことは下記の3つです。

  • その成果を実現するために必要な作業を漏れなく洗い出す(作業分解)
  • 作業の順番を決める(作業フロー)
  • 作業の割り当てと期限を決める(スケジュール)

 では、これら3つのタスクの具体的な内容を、1つずつ見ていくことにしましょう。

作業分解

 最初に、必要な作業を漏れなく洗い出すため「作業分解」というタスクを行います。これは、プロジェクトマネージャにとっては必須のタスクです。

 一般的には、作業分解を効率よく行うために作業分解図(Work Breakdown Structure/WBS)を作成します。作業分解図はプロジェクトマネジメントの基本となる、非常に重要な図です。

 下に作業分解図の例を挙げてみました。ここでは非常に簡単な事例として「タマゴサンドの作成」という仕事を取り上げています。いうまでもなく、ここでの成果は「タマゴサンドの完成」です。

ALT 図2 作業分解図の例: タマゴサンドの作成(出所: トーマツ イノベーション)

 タマゴサンドは、分解すれば「パン」「タマゴ」「野菜」から成り立っていますから、まずはそれらを成果品として書き出します。システムでいえば、「データベース」「各種モジュール」「サブシステム」などです。そして、タマゴサンドの「パン」「タマゴ」「野菜」を準備するために必要な作業を成果品の下に書き出します。システムでいえば「設計」「テスト」などに当たります。

 また「テーブルの準備」など、成果品はないものの作業としては必要な項目も合わせて書き出します。システムでいえば、「変更管理」や「教育」などがこれに当たります。

 最後に、これらの図に抜けや漏れがないかどうかチェックします。このときには、必ず第三者に見てもらうようにします。よほど考え抜いて分解したとしても、最初に書いた作業分解図には必ずどこかに抜けや漏れがあると考えてください。できれば同様のプロジェクトを経験したことがある人にチェックしてもらい、図の精度を高めていきます。前述のタマゴサンドの例であれば、お父さんが作成した作業分解図は必ずお母さんがチェックし、お母さんが作成した作業分解図は必ずお父さんがチェックする、ということです。

 ちなみにある会社では、プロジェクト管理者同士が必ず作業分解の相互チェックを行うルールを設けているそうです。この相互チェックは会社として非常に重要視されており、万が一作業の抜けや漏れがそのプロジェクトで見付かり、トラブルになったときには、相互チェックを行った管理者が連帯で責任を問われるそうです。

 ここであらためて、作業分解を行う際の原則を確認しておきましょう。

  • 「成果品」と「作業」(仕事)は階層を分けて記述する
  • 第三者によるチェックを必ず行う

 これを図示すると、以下のようになります(図3)。

ALT 図3 作業分解図作成時の原則(出所: トーマツ イノベーション)

作業フローの作成

 作業分解が終わったら、個々の作業の順番を決定し、具体的なスケジュールまで落とし込むために以下の3つのステップを踏みます。

  • 作業分解図の個々の作業項目を取り出し、それぞれの作業時間を見積もる
  • 作業フロー(PERT図)を作成する
  • 作業フローを基に、スケジュールを作成する

 まずは、作業分解図で抽出した個々の作業に要する時間を見積もります。この際、うまく作業時間が見積もれないようであれば、分解・抽出した作業項目の粒度がまだ粗すぎるということです。作業時間が想像できるようになるまで、作業を細分化してください。作業項目の粒度の目安はプロジェクトにより差がありますが、一般的には1週間程度の作業時間まで分割するのが適切といえるようです。

 次に、作業時間の見積もりを基に作業フロー(PERT図)を作成します。作業フローは、各作業の順番をフローチャートのように時系列形式で図示したものです。作業フロー作成時には、「どの作業とどの作業を同時に行うことができるか?」という点と、「どの作業が終わらないと次の作業に進めないのか?」という点に特に注意します。

 前述のタマゴサンド作成のための作業フローは、以下のようになります(図4)。

ALT 図4 作業フローの作成(出所: トーマツ イノベーション)

スケジュールの作成

 作業フローができれば、それを具体的なスケジュールに落とし込むのはさほど難しくありません。ただ、スケジュールの作成に当たって気を付けなくてはいけないポイントがあります。それは、「人をどのように割り当てるか」ということです。作業の難易度と、作業負荷を考慮しながら、誰にどの作業を割り当てるかを決めていきます。

 下の図が、タマゴサンド作成作業のスケジュール表です。このスケジュールでは、同時並行で作業を3つ進める必要があるので3人の要員が必要です。ここでは「私」「妻」「娘」の3人で作業を進め、なおかつ料理の難易度が高い作業を「妻」に、難易度の低い作業を「私」に割り当てています。

ALT 図5 スケジュールの作成(出所: トーマツ イノベーション)

 以上で見てきたように、作業の分解、作業フローの作成、という段階を経ることによって、最終的に詳細な作業スケジュールが完成しました。タマゴサンド作成の例では、3人で12分間かければタマゴサンドが出来上がる、ということになりました。これは現実のプロジェクトでは、工数の見積もりに当たります。

PDCAサイクルを回す

 スケジュールが完成すれば(Plan)、後はスケジュール通りに作業を進め(Do)、適切なタイミングで進ちょくをチェックし(Check)、遅れなどがあれば対策をとります(Act)。このときの対策は、場合によっては作業分解や作業フローの見直しなども含みます。

 PDCAサイクルを回す際には、最も時間のかかる作業経路に注意を払う必要があります。この作業経路は「クリティカルパス」とも呼ばれるもので、タマゴサンドの例でいえば、パンをトーストする→パンにマヨネーズを塗る→パンにキュウリをのせて挟む(テーブルに皿を並べる)→パンを切って盛り付ける、という経路です(図4)。

 クリティカルパスに遅延が発生すると、プロジェクト全体のスケジュールが遅れます。また逆に、この経路の時間を短縮すれば、プロジェクト全体のスケジュールを短縮することができます。従って、プロジェクトマネージャは常にクリティカルパスに注意を払い、適切に作業成果が挙がっているか確認しながらプロジェクトを運営していかなくてはいけません。

簡単なことを確実に行う

 今回は、プロジェクトマネジメントにおいてマネージャが行うべきことを、駆け足でざっと説明しました。最後に、それらをまとめて図示してみましょう(図6)。

ALT 図6 プロジェクトマネジメントのタスク(出所: トーマツ イノベーション)

 これらのタスクの詳細な手法や押さえるべきポイントについては、今後詳しく解説していきます。しかし、基本的には今回紹介したことを、確実に行えばいいのです。

 「何だ、思ったより簡単じゃないか」と思われた方がいるかもしれませんが、全くその通りなのです。プロジェクトマネジメントそのものは、簡単なことを確実に行うだけなのです。

 しかし、一転して現実に目を向けてみると、プロジェクトのトラブルはあちこちで頻発しています。プロジェクトマネジメントが簡単だなどといわれても、にわかには信じられないかもしれません。

 本来は簡単なはずのプロジェクトマネジメントが、現実にはなぜうまくいかないのでしょうか? プロジェクトマネジメントの困難は、一体何に起因しているのでしょうか? この点について、次回以降じっくり考えていきましょう。

筆者プロフィール

安達 裕哉(あだち ゆうや)

トーマツ イノベーション株式会社 シニアマネージャ

筑波大学大学院環境科学研究科修了後、大手コンサルティング会社を経てトーマツ イノベーション株式会社に入社。現在、主としてIT業界を対象にプロジェクトマネジメント、人事・教育制度構築などのコンサルティングに従事する。そのほかにもCOBIT、ITサービスマネジメント、情報セキュリティにおいても専門領域を持ち、コンサルティングをはじめとして、企業内研修・セミナー活動を積極的に行う。



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