以上のように、需給計画とは社の資産規模、収益性、生産規模を決定する非常に重大なテーマです。この点で、第1回「『失敗』から学ぶ、SCMの基本」でも説明したように、会社のマメネジメント層の参画と意思決定が必須な要件であることが、あらためて理解できたのではないでしょうか。
こんな話もあります。「需給計画によって販売の売り玉が決まる」といいましたが、仕入数や生産数が販売計画数に満たない場合、用意できる在庫を各販売組織や仕向け地にうまく分配しなければならない、といった事態に陥ることがあります。これを「供給配分」といいます。例えば、製品に人気があって予想以上に早いペースで売れているような場合です。
供給配分では、各販売組織・仕向け地の間でシビアな取り合いが発生します。それもそのはず、販売計画にかかわらず、配分された数量が「販売できる上限」になってしまうからです。しかも供給配分の方針次第で、各販売組織が割り当てられた、あるいは自ら決めた販売計画・販売予算を「商品がないばかりに達成できない」という理不尽な事態につながりかねないのです。従って、こうした供給配分も、メーカー本社のマネジメントクラスが判断すべき、需給計画上の重要な意思決定事項といえるのです。
ところが、こうした需給計画を、あたかも“実務担当者レベルの計画”と矮小化して理解し、“オペレーションの一種”と考えている会社が意外に多いのです。あえて繰り返しますが、需給計画とは会社の根幹を決める計画であり、“オペレーション”と考えてはいけません。マネジメント層の意思決定が必要な重大な業務なのです。
2000年ごろ、海外から鳴り物入りで日本に持ち込まれたソフトウェアがありました。需給計画を担うソフトウェアです。売り文句は“自動最適化”でした。多くの企業は先を競うように導入を進めました。しかし、いまとなっては当時の陶酔がまるでうそのようです。現在、自動最適化された需給システムを使おうという会社は少ないのではないでしょうか。
需給計画は、資産と利益とリスクを勘案した、会社としての高度な意思決定事項です。業界の特徴も、ビジネスの現場も、何ひとつ知らないどこかの誰かが考えた、矮(わい)小な数学的最適化で算出できるような結果など、いったい誰が納得できるというのでしょう。
“経営における意思決定”とは、もっと複雑なものです。過去や未来、顧客企業や消費者の特性、彼らに受け入れられるべき戦略と、それを実行するうえでの数え切れないほどの制約など、それらすべてを勘案して意思を決定する、非常に高度なものなのです。
こうした見解から、需給計画立案で求められる業務上の要件と、システム上の要件を整理すると、以下のようになります。
これに対して、「需給計画システム」が持つべき用件は以下で十分といえるでしょう。
こうして並べると、いっそう明確に理解できたのではないかと思います。需給計画=社としての意思決定は、人間の役割です。決してシステムの役割ではなく、そもそも機能的にも実現不可能です。
かつて、システムが計算した結果だけを当てにして、「経営的にまったく使い物にならなかった」と嘆くケースが数え切れないほど発生しました。システムを否定しているわけではありません。計画系業務の内容、目的も理解しないまま、システムに過度な期待を抱いた、かつての過ちを責めているのです。システムは人間の意思決定を助けるだけで十分であり、どのようなテーマも最終的には人間が判断すべきなのです。
計画系業務はSCMの肝中の肝であるため、今回は特に力を入れて説明しました。次回は計画系業務の残り2つ、生産計画、調達計画と、実行系業務について解説しましょう。
▼石川 和幸(いしかわ かずゆき)
大手コンサルティングファームであるアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)、日本総合研究所、KPMGコンサルティング(現ベリングポイント)、キャップジェミニ・アーンスト&ヤング(現ザカティーコンサルティング)などを経て、サステナビリティ・コンサルティング、インターネット・ビジネス・アプリケーションズを設立。SCM、BPR、業務設計、業務改革、SCM・ERP構築導入を専門とし、大手企業を中心に多数のコンサルティングを手がける。IE士補、TOCコンサルタント。『だから、あなたの会社のSCMは失敗する』(日刊工業新聞社)、『会社経営の基本が面白いほどわかる本』(中経出版)、『図解 SCMのすべてがわかる本』(日本実業出版社)、『中小企業のためのIT戦略』(共著、エクスメディア)など著書多数。
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