いまさら追加された「内部統制Q&A」のポイントSOX法コンサルタントの憂い(14)(4/4 ページ)

» 2009年05月13日 12時00分 公開
[鈴木 英夫,@IT]
前のページへ 1|2|3|4       

期末日後の手続き、決算日が相違する子会社、取締役会の承認

【問76】期末日後に実施される統制手続き

(問76) 売上プロセスにおける最も重要な統制手続きとして、期末日の売掛金残高を対象に実施する管理手続きを位置付けているが、期末日現在の売掛金残高を対象とした管理手続きの運用評価は、期末日までに完了せず期末日後にもかなりの期間実施される。このため、監査人から、当該統制手続きは期末日時点で存在しているものと確認できないのではないかと指摘され、新たな統制手続きを構築し、当該手続きを評価対象とするようにいわれた。しかし、従来より同様の管理手続きを行っており、それを確認することで十分と判断してもよいのではないか。

(答え抜粋) 1.実施基準では、経営者による内部統制評価は、期末日を評価時点として実施することとされているが、運用状況の評価の実施時期は、期末日後であっても問題なく、評価時点(期末日)における内部統制の有効性を判断するための適切な時期に評価を実施すれば足りるとされている(実施基準2 3(3)4ハ)。

2.また、監査人による内部統制の整備状況および運用状況の有効性の検証については、経営者の評価がすべて完了していない場合であっても、実施することが可能であると考えられる(問50参照)。

3.ご指摘の売掛金残高に係る管理手続きが、最も重要な統制手続きと位置付けているのであれば、より適切な内部統制を構築し評価することが必要になるものと考えられるが、売掛金の管理手続きは、同様の手続きが前年度や月次あるいは四半期にも行われていると考えられ、監査人は経営者の暫定的な評価について、その妥当性の検証を行っておくことも考えられる。従って、必ずしも従来の統制手続きを変更し、新たな統制手続きを構築し直さなければならないということではないと考えられる。

◆筆者の分析

しかし、年度決算に1度しか行わない内部統制監査の場合、前年度の決算時期にしかるべき統制手続きと、その評価が行われていない場合には、監査人から指摘が行われる恐れが強いので注意してください。


【問79】決算日が相違する子会社の内部統制の評価

(問79) 内部統制府令5条3項では、事業年度の末日が連結決算日と異なる連結子会社については、連結子会社の事業年度の末日後連結決算日までの間に当該連結子会社の財務報告に係る内部統制に重要な変更があった場合を除き、連結子会社の事業年度の末日における内部統制の評価を基礎として行うことができることとされているが、「当該連結子会社の財務報告に係る内部統制に重要な変更があった場合」とは、どのように判断すればよいのか。

 例えば、連結子会社の事業年度に係る財務諸表を基礎として会社の連結財務諸表を作成している場合において、連結子会社の事業年度の末日後に当期の連結財務諸表には影響をおよぼさないような事象が発生した場合(連結子会社が新たな事業を開始した場合や翌事業年度に係る新たな会計システムを導入した場合など)であっても、「当該連結子会社の財務報告に係る内部統制に重要な変更があった場合」に該当し、当該変更のあった内部統制について、連結決算日における評価対象としなければならないのか。

(答え抜粋) 1.内部統制府令5条3項は、事業年度の末日が連結決算日と異なる連結子会社について、連結子会社の事業年度に係る財務諸表を基礎として会社の連結財務諸表が作成されている場合には、連結子会社の事業年度の末日における財務報告に係る内部統制の評価を基礎として行うことができる旨を定めているものであり、連結財務諸表を作成する際の連結子会社の事業年度の取扱いと同様にしているものである。

2.従って、連結子会社の事業年度に係る財務諸表を基礎として会社の連結財務諸表が作成されている場合において、連結子会社の事業年度の末日後に当期の連結財務諸表には影響をおよぼさないことが確実であると考えられる事象が発生した場合には、「当該連結子会社の財務報告に係る内部統制に重要な変更があった場合」には該当せず、連結子会社の事業年度の末日における内部統制の評価を基礎として行うことができると考えられる。

3.なお、内部統制府令ガイドライン5-1では、「当該連結子会社の財務報告に係る内部統制に重要な変更があった場合」の例として、合併などによる組織、決算方法および取扱品目の大幅な変更が例示されているが、連結子会社の事業年度の末日後に発生した事象については、個々の企業などの置かれた環境や事業の特性、規模などによってその重要性は異なることから、当該事象の当期の財務報告に係る内部統制に与える影響の重要性を勘案して、「当該連結子会社の財務報告に係る内部統制に重要な変更があった場合」に該当するかどうかを適切に判断することになると考えられる。

◆筆者の分析

合併などによる組織、決算方法および取扱品目の大幅な変更など、事象の影響の重要性を評価・勘案することが必要となります。


【問81】内部統制報告書提出の取締役会の承認

(問81) 実施基準において、取締役会が財務報告の信頼性を確保するための内部統制の整備および運用を監督、監視、検証していないことが、全社的な内部統制の不備の例示として記載されている。このため、内部統制報告書を提出する際には、取締役会の承認などを経ておくことが必要になるのか。

(答え抜粋) 1.実施基準においては、財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例として、「取締役会および監査役会又は監査委員会は、財務報告とその内部統制に関し経営者を適切に監督・監視する責任を理解し、実行しているか」を統制環境に記載している。

2.内部統制報告書は、経営者(代表者および最高財務責任者)が当該会社の財務報告に係る内部統制の整備および運用状況を評価した結果を記載して提出するものである。従って、経営者が適切な内部統制報告書を提出するよう取締役会などが監督・監視することは全社的な内部統制としても重要であると考えられる。

3.ただし、取締役会などによる当該監督・監視の方法などは、会社によりさまざまであり、内部統制報告書の提出に際しての取締役会の承認が必ずしも必要なものではないと考えられる。

◆筆者の分析

取締役会が決議機関であることを考えれば、一定の手続きで行われる「内部統制の評価結果」を、取締役会で覆すことができないのは明らかです。


まとめ

 何れにせよ、日本版SOX法の制度がプリンシプルベースであることから、監査法人への対応は、「会社としてこういう基準で評価・判断をしています。従って重要な欠陥には該当しません」というように、論理的な主張を展開することが必要です。

 内部統制担当者としては、実施基準や金融庁のQ&Aなどの理論構成をうまく活用し、すんなりとその主張を監査法人に認めてもらうことが、監査の効率にも寄与することになります。

Profile

鈴木 英夫(すずき ひでお)

慶應義塾大学経済学部卒業、外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務める。

2004年から、同社のSOX法対応プロジェクトコーディネータ。現在は、aiリスクコンサルテーション代表、内部統制コンサルタント。プランナー・オブ・リスクマネジメント、内部監査士。神戸商工会議所登録エキスパート。危機管理システム研究学会会員、大阪J-SOX研究会幹事。

著書:「図解日本版SOX法」(同友館、共著)

近著:「日本版SOX法実践コーチ」(同友館、共著)

連絡先: ai-risk330@jttk.zaq.ne.jp

Webサイト:http://spinel3.myftp.org/hideo/ai-risk.htm


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ