ユーザー企業はUISSで人材育成できるのか間違いだらけのIT人材育成(2)(3/3 ページ)

» 2010年03月16日 12時00分 公開
[井上実,@IT]
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UISSが普及しない原因その2

 ユーザー企業の情報システム部門の方々と、人材育成の話をしていると必ず出てくるのが、「ITがやりたくてこの会社に入った人は、ほとんどいませんから」という言葉である。

 確かに、ユーザー企業に入社する人は、その会社の製品や主たる事業に携わりたいと思って入社しており、たまたま、情報システム部門に配属されたという人がほとんどだろう。配属された後に、ITに興味を持ちプロフェッショナルとして活躍しようと思う人もいれば、できるだけ早く現場部門に異動になることを願って日々暮らしている人もいる。大きく2つの想いを持っている人たちが混在しているのが、ユーザー企業の情報システム部門である。

 ITのプロフェッショナルになろうと思っている人たちに、UISSの人材像を適用し人材育成を図ることは、本人の希望とも一致するため容易だが、現場部門への異動を希望している人たちにUISSの人材像を適用することは難しい。

 そもそも、企業内の一部門の中だけで、必要な人材像を明らかにすることが必要なのだろうかという疑問も湧く。企業全体で人材像を統一して育成を図らないと、部門間の人事異動が難しくなる。特に、日本の企業は職能制度を採用し、部門間の人事異動を容易にして、ゼネラリスト育成に力を入れてきた歴史があるため、部門ごとのスペシャリスト、プロフェッショナル育成に消極的な企業も多い。

 UISSは情報システムという切り口からだけ見たために、他部門や企業全体の人材像との整合性の取りにくいことが、普及を困難にしているもう1つの原因である。

シンプルな人材体系が解決への道

 人材像とタスクがほぼ1対1対応しているのに、タスク自体のくくりが細かなものしかないことと、他部門や企業全体の人材像との整合性を取りにくいことが、UISSの普及を困難にしている原因である。

 これらを解消するために、前回IT企業に対して提唱したシンプルな人材体系であるIT人材キューブ(図表6参照)のユーザー企業への適用を考えてみたい。

ALT (図表6)IT人材キューブ

 IT人材キューブのベースはPDCAサイクルにある。情報システムの関連

業務に限らず、企業内の活動はPDCAのマネジメントサイクルを回すことで

行われる。IT人材育成も同様だ。

 従って、企業内の他部門の活動であっても、抽象度の高いレベルでは活動内容は一致する。販売部門であっても、生産部門であっても、企画―設計・開発・導入―運用・評価というプロセスは存在する。内容は異なるものの、大きな流れは変らず、各プロセスの中で必要とされるスキル・知識には共通するものも多い。

 例えば、企画プロセスでは、分析力・戦略立案力などのコンセプチュアルスキルが高いレベルで求められ、設計・開発・導入では、マネジメントスキルが求められる。これはどの部門であっても変わることはない。従って、他部門や企業全体の人材像と整合性が取りやすくなる。情報システム部門で育成したスキルが、ほかの部門に異動したときにも有効に活用されるため、異動を望んでいる人たちに対しても有効なものとなる。

 3つのプロセスを質的な相違からアプリケーションとインフラの2つに分け、6つのシンプルな人材像にまとめることができる。プロセスとの対応は1対2となるが、UISSのタスクに比較するとプロセスのくくりが大きいため、人材像の数は少なくなっている。

 このようにシンプルな人材像を適用することにより、UISSの普及を阻害している2つの原因は解消される。

 人材像ごとのレベルは、UISSでは担当するタスクに対応したスキルにレベルごとに、「業務の貢献範囲」「プロフェッショナルとしての貢献度・認知度」「要求作業の達成度」「知識の活用」が決められている(図表7参照)。

ALT (図表7)UISSのキャリアレベル(クリックで拡大)
(出典)『情報システムユーザースキル標準Ver.2.1』(IPA 、JUAS、経済産業省著)

 若干、とらえ方の相違はあるものの、「業務の貢献範囲」がIT人材キューブにおけるレベルの考え方(システム対象範囲)と一致している。

 レベルを対象範囲により分けていく考え方は、情報システム部門だけではなく、企業内の他部門と共通する考え方である。マネジメント範囲が広くなればなるほど、課長―部長―事業部長―社長とレベルが上がっていくように、組織内のレベルは範囲の広さにより決定されるものが多い。IT人材キューブのレベルの考え方は、この考え方と一致するものであり、従って、他部門や全社の人材像との整合性が取りやすい。

 このように、IT人材キューブで示されるシンプルな人材体系をユーザー企業の情報システム部門に適用することにより、ユーザー企業のIT人材育成が促進され、質的に向上することを期待したい。

【参考文献】
▼『情報システムユーザースキル標準Ver.2.1』(IPA 、JUAS、経済産業省著)
▼『IT人材白書2009』(IPA IT人材育成本部=編、オーム社)(IPA IT人材育成本部=編、オーム社)
▼『ITスキル標準V3 2008 2部キャリア編』(IPA IT人材育成本部 ITスキル標準センター=著)(IPA IT人材育成本部 ITスキル標準センター=著)


著者紹介

▼井上 実(いのうえ みのる)グローバルナレッジネットワーク(株)勤務。MBA、中小企業診断士、システムアナリスト、ITコーディネータ。第4回清水晶記念マーケティング論文賞入賞。平成10年度中小企業経営診断シンポジウム中小企業診断協会賞受賞。

著書:『システムアナリスト合格対策』(共著、経林書房)、『システムアナリスト過去問題&分析』(共著、経林書房)、『情報処理技術者用語辞典』(共著、日経BP社)、『ITソリューション 〜戦略的情報化に向けて〜』(共著、同友館)。


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