ITリーダーは、PaaS市場の動向を見極めよガートナーと考える「明日のITイノベーターへ」(2)(3/3 ページ)

» 2011年08月02日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]
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ハイブリッド型クラウドで重要性を増してくるiPaaS

三木 一方、ミッションクリティカルなオンプレミスシステムに不可欠なミドルウェアとしてTPモニタが挙げられますが、これも今後クラウド環境に移行していくとお考えですか?

ナティス氏 それはないと思います。確かにクラウドにおいても堅牢なTPモニタは必要ですが、それはこれまでのTPモニタとは異なる姿を採ることになると思います。クラウドは並列処理やリソース共有、グリッドコンピューティングなど、これまでのITシステムとは異なる内部アーキテクチャを必要とします。これらの機能は、旧来のTPモニタには含まれていません。従って、クラウド用の新しいTPモニタが必要となります。われわれはこれを「Cloud TP」と呼んでいます。

「多くの企業は重要なデータは社内で運用したいと考える。だが、高速並列処理システムなど、クラウドでしか実現できないアプリケーションも数多くある。従って、多くの企業はハイブリッド型クラウドを採らざるを得ない」――イェフィム・ナティス

 例えばGigaSpacesは、そうしたTPモニタを提供するベンダの1社です。また、SAPはこれまで自社製品の中にTPモニタを内蔵していましたが、これからはSAP HANAのインメモリコンピューティングプラットフォームがクラウド時代の新たなTPモニタとしての役割を担っていくでしょう。

三木 なるほど。ところで、企業がクラウドを活用する形態として、オンプレミスとクラウドを混在させたハイブリッド型があるかと思います。ハイブリッド型のシステム運用は、果たして企業に本当にメリットをもたらすのでしょうか?

ナティス氏 多くの企業にとって、自社にとって重要なデータは社内で運用し続けたいと考えるのが自然でしょう。しかし一方で、ソーシャル系のアプリケーションや高速並列処理システムなど、クラウドでしか実現できないアプリケーションも数多くあります。従って、クラウドの活用も確実に進展していくことでしょう。その結果、多くの企業システムはオンプレミスとクラウドが混在するハイブリッド型の形態を採らざるを得ません。

「iPaaSの領域は今後、クラウドの未来を占う上で極めて重要な取り組みになる。iPaaSベンダの合従連衡も進んでいくことになるだろう」――三木泉

 しかし、これは決して新しい現象ではありません。アプリケーション統合はもう20年前から多くの企業が取り組んでいるテーマですし、サプライチェーン最適化のために企業のシステム同士を連携させる取り組みも長く行われてきました。自社システムとクラウドサービスとの連携は、そうした過去の取り組みの延長線上にあるものなのです。

 ただ問題は、この連携を具体的にどのように行えばいいのかということです。ESBなど、これまでオンプレミスで使っていた連携プラットフォームを活用してもいいのですが、クラウドサービスとして提供される連携プラットフォームを使う手もあります。これが「iPaaS」(Integration Platform as a Service)と呼ばれるサービスです

 iPaaSはまだ未成熟な技術ですが、ガートナーでは3〜5年後には、aPaaS(Application Platform as a Service)よりも重要性を増すだろうと予測しています。先ほども述べたように、今後多くの企業におけるクラウドの利用形態はハイブリッド型になるため、アプリケーションやサービス間の連携が新規アプリケーション開発より重要になってくるからです。

三木 なるほど。確かにiPaaSの領域は今後、クラウドの未来を占う上で極めて重要な取り組みになるでしょうね。同時にiPaaSは、極めて高度で複雑なソリューションを必要としそうです。今後iPaaSは、どのように発展していくとお考えですか?

ナティス氏 オンプレミスにおけるアプリケーション統合は非常に複雑な取り組みですが、過去20年の間にさまざまな理論や技術が研究され、ベンダからさまざまなソリューションが提供された結果、今では広く理解されるようになっています。その過程で蓄積されたノウハウはiPaaSでも生きてきます。マルチテナント性や新たな開発スタイルなど、オンプレミスにはない新たな知見も必要とされますが、基本的な部分は共通です。今後、ミッションクリティカルな分野におけるクラウドの利用が拡大していくにつれて、高い専門性を持ったiPaaSのプロバイダが出てくることでしょう。

三木 そうなると、iPaaSベンダの合従連衡も進んでいくことになるでしょうね。

ナティス氏 同感です。ただし長期的に見た場合には、iPaaSの領域で成功を収めるのは、買収によって得たソリューションをばらばらに提供するベンダではなく、それらを1つに統合して提供できるベンダだと思います。

「iPaaSとaPaaSは『Comprehensive PaaS』として1つにマージされる。ユーザーはアプリケーションやサービスを統合するプロジェクトではiPaaSを、新規のアプリケーションを構築するときにはaPaaSを、といった具合に、ニーズに応じて使い分けることになる」――イェフィム・ナティス

三木 さらにその先までを見据えると、iPaaSとaPaaSを統合して、PaaSの全てのスタックを統合したソリューションが求められてくるかもしれませんね。

ナティス氏 その通りです。ガートナーでは、将来的には「iPaaSとaPaaSは『Comprehensive PaaS』として1つにマージされる」と見ています。単一のベンダがiPaaSやaPaaS、さらにはその他の全てのPaaSのスタックを統合し、一括して提供するようになるわけです。

 ただし、そうなった後もユーザーはアプリケーションやサービスを統合するプロジェクトではiPaaSを、新規のアプリケーションを構築するときにはaPaaSを、といった具合に、ニーズに応じてiPaaSもしくはaPaaSのスイートを使い分けることになると思います。従って、ベンダが単独でComprehensive PaaSを提供できるようになった後も、ユーザーは引き続きそのサブセットとしてのiPaaSやaPaaSのソリューションセットを必要とするのではないでしょうか。

企画:@IT情報マネジメント編集部

構成:吉村哲樹


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