学生の内にオープンソースの世界を踏み台にしろ!:挑戦者たちの履歴書(144)
編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。今回は、瀧田氏のMozilla Foundation立ち上げ後を取り上げる。初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。
瀧田氏は現在、Mozilla Japanの代表理事としての仕事のほかに、文部科学省が主導する産学共同の人材育成プロジェクト「先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム」の一環として、大学でオープンソースシステムの講師を務めている。将来のIT業界を背負って立つ学生たちを指導する立場にある同氏の目に、現代の若者像はどのように映っているのだろうか?
「最近よく言われるように、最近の若い子たちは皆草食系ですねえ。特に私が教えている学生たちは、貪欲さに欠けている気がします。これまで何の疑問も持たずに、ただ決められたレールに乗って良い大学に入れたから、これからも何とかなると思っているんですね。そういう学生たちには、『社会に出たら、これまでのように簡単にはいかないよ!』と口を酸っぱくして言っています」
瀧田氏は、怠惰な学生を容赦なく叱り付けると言う。それで萎縮してしまう学生もいるかと思えば、中には逆に「叱ってほしい」と願う学生もいるというのだから、面白いというか何というか……。
「大学の先生からは、『瀧田さんは今の若い子たちと違って肉食系だから!』なんて言われてますけど、今の学生たちはきっと叱られたことがない世代なんですね。この間も、就職活動中の学生が、『活を入れてもらいに来ました!』と、わざわざ私のところに来たぐらいですから!」
そんな学生たちに対して、瀧田氏は「学生でいられる内に、オープンソースの世界を踏み台にしろ!」と説いていると言う。
「私自身、大学も企業も特に確固たる目的もないまま飛び込みましたけど、結局は自分が入った場所を最大限に使い倒して、いろんなことを積極的に学んでいけば、自ずと道は開けてくると思います。特にオープンソースの世界は今、自分の能力を思う存分試してアピールできる環境が整っていますから、若い人たちにとっては非常に大きな可能性が広がっています」
また同氏は、既に社会に出て働いている若者に対してもエールを贈る。
「よく『誰のために仕事をしているんですか?』と訊かれることがあるんですけど、まず1つには自分のためです。特に過去10年間の自分の仕事を振り返ったとき、何より自分が好きな仕事だったから、これだけ打ち込んで来れたんだと思います。そしてもう1つの重要な動機が、自分の仕事でほかの人たちに喜んでもらいたいから。私の場合、ここにものすごく働く喜びを感じるんです」
このバグを直せば、お客さんが喜んでくれる。この機能を実現すれば、ユーザーが喜んでくれる。小さくても良いから、そうしたことを1つ1つ積み重ねていくことが、働く喜びにつながっていくと瀧田氏は言う。
「そうした結果、自分の仕事にわくわくしながら、楽しんでやれるようになることが一番だと思いますね」
そんな瀧田氏の座右の銘は、「トライしなければ、結果なし」(“No Try, No Success!”)だ。
「私はこれまで、本当にいろんなことを経験してきましたけど、今振り返って思うのは、『何だって試してみなければ分からない!』ということです。そしてトライしてみた結果、たとえそれが失敗したとしても、それをプラスに変えていけば良いんですよ!」
こうした考え方は、得てして「プラス思考」という紋切り型でとらえられがちだが、瀧田氏が言わんとすることは、これとはまた若干ニュアンスが異なると言う。
「失敗を挽回するための問題解決の方法って、一通りじゃないですよね。一生懸命考えれば、必ず別の方法が見つかるはずなんです。だから、問題に直面しても簡単には諦めない。また違う方法を試せば、うまくいくかもしれない。まさに“日々挑戦”です。この挑戦の意欲がなくなったときが、私の最期だと思っているんです!」
24回にわたってお届けした瀧田氏の履歴書は今回で終了です。次回はまだ未定ですが、決まり次第お知らせしますので、お楽しみに!
著者紹介
▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)
早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。
その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。
- 学生の内にオープンソースの世界を踏み台にしろ!
- 第二次ブラウザ戦争の先にあるものとは
- Firefox成功の要因は“ブログの口コミ”
- 苦心したコミュニティとの関係構築
- 一度足を洗ったものの、再びブラウザの世界へ
- “1人ネットスケープ”になっても衰えなかった製品愛
- 聴力を失っても頑張り続けたネスケサポート
- 出産3時間前まで開発を続ける
- 結婚式の翌日には米国にとんぼがえり!
- “MOJIBAKE”を一般語化させる
- ネスケ本社のいい加減なテスト方法に驚愕
- 肌で感じた日米の“エンジニアへの待遇格差”
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