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「大容量こそが次世代光ディスクに必要」〜パナソニック ハリウッド研究所特集:次世代DVDへの助走(3/4 ページ)

» 2004年02月10日 23時45分 公開
[本田雅一,ITmedia]

フィルムらしさ”まで消えてしまう

 MPEG2は、20〜24Mbpsの高ビットレートならば、HD映像を十分な画質で圧縮できていることが確認できている。10年以上前からある枯れた技術だけに、確実に一定の品質を得ることができるわけだ。しかしMPEG4系の技術は、高圧縮率を得るための前処理などを含め、きちんと求める品質を出せるかどうか、今の時点で単純な判断はできないというのが、PHLとDVCCが出した結論だという。

 MPEG4を起源とするコーデックでは、映像をあらかじめ圧縮しやすい状態にするため、圧縮の前処理として多くの強いフィルタをかけ、圧縮しづらいノイズ成分などを取り除く。この際、フィルムグレイン(フィルム粒子ノイズ)をはじめとする“フィルムらしさ”まで消えてしまいやすい。それどころか、シャツやセーターの細かな織り目のようなディテールが消えたり、小雨のシーンが濃霧のように見えてしまう場合もあるという。

 DVCCで試験的にオリジナルマスターと同程度のディテールを残そうとしたところ、40Mbpsまでビットレートを上げる必要があったとか。MPEG2ならば24Mbpsあれば、ほとんどの映画関係者が満足するという。ロービットレートで高画質だからといって、高ビットレートではさらに高画質になるというわけではない好例といえるだろう。

 ただし、完全に否定しているわけでもない。

 「ロービットレートでのメリットは確かにある。したがって、圧縮技術やそれを実現する半導体技術が進歩したら、HD映画についても、いつかはMPEG4系の技術へと移行したいという気持ちはある」(柏木氏)。

 MPEG4系の技術はHD映画には不向きとする一方で、増加する一方のボーナスコンテンツなどでは高圧縮のコーデックを使いたい場合も出てくるだろう。だからH.264の採用の可能性がある。容量が大きいBD ROMならば、メインコンテンツはMPEG2、ボーナスコンテンツはH.264といった使い分けも可能になる。では、WMV9はどうなのか? PHLもDVCCも、WMV9の画質はH.264よりも高く評価しているようだ。

 「マイクロソフトはSMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers:映画テレビ技術者協会)にWMV9の規格(VC9:規格名)を公開した。したがって現在のライセンス条件が将来のライセンス条件になるかはわからない。ライセンス条件が明確になっていないコーデックを規格で使うのは難しいと思う。なぜなら、公開されたWMV9の規格の内容はSMPTEのメンバーならチェックすることが出来るので、MPEG特許を持った会社が特許侵害を申し立てる可能性もある。この場合は、機器メーカーがロイヤリティを払わなければならなくなるので、WMVを採用すべきかどうかは現状では判らない」(柏木氏)。

ハリウッドとの交渉はBDFも続けている

 昨年の終わりに公開され、話題になっている次世代光ディスクに対してハリウッド映画スタジオが提出したウィッシュリスト(HAC2リスト:Hollywood Advisory committee 2リスト)。これはハリウッド映画会社7社(MPAA加盟会社)が自主的にハリウッドの映画会社の要望をまとめたものである。

 実は、ハリウッドに要望リストを作らせ、それを盾に標準化を強力に推し進める戦略は、今回が初めてではない。かつて東芝は、SD対MMCDの対決の中で、同様の戦術を用いて大容量のSD規格の正当性を訴えたことがある。

 「BDFは、もちろん映画スタジオと継続して意見交換を行っている」とサリバン氏。ウィッシュリストは、ビジネス面でのメリットを優先させ、現行DVDからのスムーズな移行を望む条項が多い。しかし、実際にはハリウッドからの要求は、簡単なリストにまとめられるほど単純なものではない。

photo PHL企画担当リーダーのエリン・サリバン氏

 BDとAODの比較で、BDに不利と取られ易い項目も存在はするが、サリバン氏は「実際の要求はもっと複雑。技術的な問題や将来性などの側面を説明すれば、BDが不利な項目はないと考える」と、ハリウッドとの交渉役を行っている担当者として反論した。

 「ウィッシュリストは貴重な意見だ。BDとしては、HAC2ウィッシュリスト以上の内容をBD要望仕様として検討している。つまり、BDでは、スタジオの要望をより明確化することで、魅力的な光ディスク技術を実現できると考え、ハリウッドと共同で検討を進めている」(サリバン氏)。

 具体的にはPHLがBDFの代表として、映画スタジオの担当者との間で、2カ月に1回の割合でミーティングを重ねているという。これまで、既に8回のミーティングをこなしてきたそうだ。サリバン氏は「BD要望仕様は、ハリウッドと大筋合意しているが、今年中には細かな部分について詰めていきたい」という。

新しいフォーマットには大幅改善が必要

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