「デジタル時代の著作権協議会」(CCD)は、デジタルコンテンツの流通を促進するという考えから、ブロードバンド放送を始めとしたデジタルコンテンツの権利問題やファイル交換ソフトの問題など、従来の著作権では対応できない問題についての研究を進めている。
著作権的に見た場合、現在のデジタルコンテンツ(及びその配信・流通)にはどのような問題が含まれているのか。CCDのシンポジウムから、ブロードバンド放送に潜む問題点を探ってみた。
乱暴を承知で言ってしまえば、ブロードバンド放送が抱える問題はすべて、「現状に法律が追いついていない」−こう集約することができる。あまりに現実のスピードが速すぎて、法解釈の対応や共通認識の確立が間に合わないのだ。
「それでは、法律を改正すればいいではないか」。だが、現在の法制度をデジタルコンテンツの流通に対応した形に改変するといっても、そう簡単に事は運ばない。
一口にデジタルコンテンツといっても、その形状や流通形態は非常に多彩。加えて、複製しても劣化しないのがデジタルコンテンツたるゆえんであり、最大のメリットでもある。しかしこうした確たる形を持たないものの権利を法律で保護するには、問題点を明確にし、多種多彩な状況を想定した上での法整備が必要になる。
CCDにて権利問題研究会の主査を務めるコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の専務理事 久保田裕氏は、ブロードバンドで舞台中継を行うサービス「ブロードバンドシアター」(ソニーコミュニケーションネットワーク)を例に、ブロードバンド放送に対する現行法の課題を指摘した。
同氏によれば、最も大きな課題は、このサービスがTV・ラジオを主な対象とした現在の放送法の適用を受けないため、「放送番組の編集にあたっては、公序良俗を害しないこと」という放送法の規制を受けないことだ。
また、著作権法では、個人で楽しむ場合でも、政令で定められたデジタル機器を用いた録音録画については著作権者への補償金の支払いが義務づけられている。いわゆる「私的録画補償金」という制度だ。
しかし、PCは現在この制度の対象になっていないため、録画が可能になった場合、著作権者に補償金が支払われない。これも課題の一つだ(ブロードバンドシアターはシステム上PCへの録画は不可能)。
映像の配信に際してはサーバのRAMに映像が一時的に蓄積されることになるが、これを「複製」と捉えることもできる。そうした場合には「複製権」の問題も発生する。
そのほか、配信された映像のDVD化など、二次使用についての問題もある。現行法では、「放送のための録音録画」ならば許諾が必要で、「映画のための録音録画」ならば許諾は不要となっている。では、こうしたバーチャルシアターの場合はどうなるのだろうか。それがはっきりしない。
バーチャルシアターは一般的なアミューズメントコンテンツの例だが、ブロードバンド放送の利用が見込まれるジャンルはほかにもある。最も有望視され、普及に向かっているひとつが教育の分野である。
生徒のいる教室と留学生のいる教室をブロードバンドで結んで交流しつつ英語のレッスンを行う。生徒のいる教室と先生しかいない英会話スクールの教室を結んで英語のレッスンを行う。この2つは一見似ているが、著作権的には大きな違いがある。
著作権法第35条には、教育現場においては必要と見なされる場合に限り、著作物を複製し、未許諾で使用できるとされている。しかし、インターネットの遠隔授業はこの例外に含まれないとされていた。
これが2004年に改正され、直接授業を行う主会場と遠隔授業を行う副会場が存在することなどの条件付きながら、遠隔授業においても著作物の未許諾使用が行えるようになったのだ。
前者は双方の教室に生徒と教師がいるため要件を満たし、通常の授業と何ら変わらない遠隔授業を進めることができる。しかし、後者は英会話スクールには先生だけ、教室には生徒だけという形態のために、要件を満たさない。送信自体は行えるものの、教材など著作物を利用できないのだ。
このように、遠隔授業については法整備が行われたおかげで現実と法律のギャップは縮まった。しかし、久保田氏が指摘するように、ブロードバンド放送自体についての著作権的な問題は多くが未解決だ。
既存の放送媒体とは異なるとはいえ、ユーザーから見た場合、それが地上波や衛星回線を介して送られてくるものでも、インターネット回線から送られてくるものでも、放送は放送だ。こうした諸問題について、ブロードバンドシアターでは現在、契約で問題を処理しているが、出演者や制作者の権利保護のためにも、法整備あるいは共通認識の確立が早急に求められるだろう。
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