「家電やPCが相互に接続され、家中どこでも自由にデジタルコンテンツを楽しめるようになる」――これまで耳にタコができるほど聞かされてきたデジタルホームの未来像だが、いまだに実現される様子はない。しかし、この2004年こそ、そのための“元年”とでも言うべき年になるかもしれない(これも何度も聞かされた気もするが……)。
「家中どこでもコンテンツを楽しむ」環境の実現に欠かせないのは、PCや家電の区別なく、しかもどのメーカーのどの製品を接続しても、コンテンツを自由に扱えるための「統一規格」だ。インテルが7月12日、開発者向けに開催した「第2回 インテル・デジタルホーム開発者セミナー」では、AV家電におけるコンテンツの相互運用についての現状が報告された。
このセミナーで米IntelのDigital Home Marketing&Planning Directorを務めるビル・レジンスキー(Bill Leszinske)氏が力説したのは、従来のように「PCがすべてのデジタルコンテンツの受け皿であり、利用のスタート地点になる」のではなく、「家電を含めた“コンテンツの共用・相互運用”こそが鍵を握る」ということだ。
すでに同社はHewlett-PackardやMicrosoft、Nokia、ソニー、PhlipsなどとDHWG(Digital Home Working Group)という団体を2003年6月に結成し、AV家電・PC・携帯デバイス間でのデジタルコンテンツ共有環境を整えるべく活動してきた。今年6月には、名称をDLNA(Digital Living Network Alliance)に変更、併せてガイドラインのバージョン1.0をリリースしている。
ただ、DLNAのガイドラインは利用するネットワーク(イーサネット、802.11a/b/g)、ネットワークプロトコル(IP、IPv4)、メディアトランスポート(HTTP)、メディアフォーマット(jpeg、MPEG-2)などの大まかな枠組みを定めるのみで、対応機器の形状やインタフェースなどはメーカーの判断に任せられている。
それゆえ自由度は高いが、かえってそれが災いし、機器同士の互換性を完全に保証できないことも想定される。これに対応するため、Intelが2003年9月のIntel Developper Forum(IDF)で発表したのがNMPR(Network Media Product Requirements=ネットワーク・メディア製品要求仕様書)だ。
NMPRは既にv1.00の仕様書が提供されており、セットトップボックスやDMR(Digital Media Receiver)/DMA(Digital Media Adapter)で対応すべきプロトコルやフォーマットなどが記述されている。無論、NMPRはDLNAを内包しており、NMPR準拠の機器ならば、DLNAのガイドラインを満たすことができる。
ちなみに、DMR(Digital Media Receiver)/DMA(Digital Media Adapter)という聞き慣れないデバイスは、PCやHDDレコーダーに存在するコンテンツをネットワーク経由で再生することに特化した製品。会場に展示されていたケンウッドの「VRS-N8100」などがこれに相当する。
今回のセミナーでは、今年9月のIDFでリリースが予定されているNMPRの次期ガイドライン(v2.0)に、著作権保護機能の「DTCP-IP」やメディアレシーバーのユーザーインタフェースをサーバ側でコントロール可能な「Remote UI」などが含まれることが明らかにされた。NMPR v2.0対応の開発・検証ツールも第4四半期に正式版がリリースされる予定で、NMPR v2.0準拠の製品は2005年の夏以降に登場する見通しだ。
「PCに蓄積したコンテンツを家の中で共用し、リビングやポータブルデバイスで利用できるようにする」。レジンスキー氏はこう述べ、「ホームAVネットワーク」とも呼べる新たな活用法を創造・提案し、新市場の開拓を目指す方針を明らかにした。
今回のセミナーへの参加者は前回よりも多い160人弱。PC・家電メーカーだけでなく、ミドルウェア、ISV、コンテンツ制作会社なども参加しており、ホームAVネットワークに対する関心の高さをうかがわせた。
DVDソフトの普及や2006年に本格開始が予定されている地上デジタル放送など、コンテンツのデジタル化がやってくることは間違いない。しかし、関連業界は著作権保護システムの導入に汲々としており、ホームAVネットワークのようなユーザーの新しいコンテンツの楽しみ方にまで、なかなか思いが至らないというのが現状だ。それでは折角のデジタルコンテンツも、特性を十分に生かしきれているとは言えない。
レジンスキー氏が言うとおり、鍵は「コンテンツの共用・相互運用」だ。DLNA、あるいはNMPRといった取り組みは、確かにその回答の一つになる可能性を秘めている。
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