三洋電機が昨年11月に発売した薄型テレビ「CAPUJO」(カプージョ)シリーズは、プロダクトデザイナーが手がけた、いわば“デザイナーズ家電”だ。同社が推進している「デザイン プロジェクト」の最初の成果であり、エアコンの「四季彩館」などに繋がる先駆的な役割も果たしている。ただ、その開発は決して平坦な道ではなかったようだ。
そもそも、薄型テレビのように主要なコンポーネントが最初から決まっている製品は、デザイン的な自由度が低いものだ。液晶やプラズマのパネルが必ず正面中央にあるため、外観を大きく変える要素といえばスピーカーの位置か、スタンドの形くらい。事実、家電店のテレビコーナーを眺めれば、同じような色とデザインの製品ばかりが並んでいるだろう。
CAPUJOシリーズの開発を統括した三洋電機AVカンパニー経営企画室経営管理部の清水正人デザイン部長は、「液晶テレビやプラズマテレビは、薄くクールでシンプルなデザインが追求されてきた結果、どこのメーカーでも似たようなデザインになっている」と指摘する。「そんな中で、三洋電機のアイデンティティを強く打ち出すには何をすればいいか。デザインの力でアピールしようと考えました」(清水氏)。
プロジェクトが始まったのは2004年冬。当時、三洋電機は携帯電話などでデザイン重視の製品を発売した前例はあったが、テレビでは全く初めての試みだ。そこで清水氏は、以前から交流のあったフランス人デザイナー、グエナエル・ニコラ氏に白羽の矢を立てた。ニコラ氏は、日本を拠点に店舗や家具、パッケージデザインなどを手がけるプロダクトデザイナーだ。
「最初に話をしたのは、2004年の2月11日です。先方の事務所を訪ね、3時間くらいかけてイメージを伝えました。もちろん、この時点ではニコラさんにお願いすると決めていたわけではなかったのですが、ご本人も“家電でやってみたいことがある”と乗り気でしたね。その2日後には、お願いすることに決めました」。
このとき伝えたイメージは、“優しさ”“透明感”“可愛いらしさ”という、極めて漠然としたもの。しかしニコラ氏は、わずか10日後に3つのデザイン画を完成させたという。
「3つの中から1つを選ぶのは難しいものですが、中にはそのまま製品にするにはハードルが高いデザインもありました。たとえばその中の1つは、稼働部が多く、しかも“動く”という要素が盛り込まれないと、全体のイメージが実現できないものでした」。
結局、開発面であまり無理がなく、また一番“優しい”印象を受けるデザインが選ばれた。それがCAPUJOの原型だ。
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