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「tagtype」の新たな闘い――L.E.D.展 “MOVE”っぽいかもしれない(1/3 ページ)

» 2005年12月12日 10時47分 公開
[こばやしゆたか,ITmedia]

 12月9日から11日まで、東京青山スパイラルガーデンで「LEADING EDGE DESIGN展 “MOVE”」が開催された。「morph 3」「Hallucigenia 01」や「Suicaの読み取り機」で紹介した、山中俊治さん率いるLEADING EDGE DESIGN(LED)の手がけた「プロトタイプ」を展示した展覧会だ。

 デザインということばが見栄えを良くするという意味に使われがちな街で、「こうあって欲しい」ものをデザインしてきた、そのプロトタイプの展示会だ。しかも山中さんに言わせれば「勝手に作っちゃった」プロトタイプばかりだというのだ。全部で10点あったのだけど、その中からいくつかを詳しく紹介しよう。

tagtype Garage Kit

photo

 tagtypeを覚えているだろうか? もともと1999年に当時東京大学の学生だった田川欣哉さんが、小児まひの後遺症で親指しか動かせなくなった作家えとう乱星氏のために作ったというキーボードだ。田川さんはその後LEDに参加、2000年にはプロトタイプが発表される。

 このプロトタイプは評判になった。公式サイトを見るとわかるが、あちこちのメディアで盛んに取り上げられ、雑誌の表紙も飾っているくらいだ。商品化にむけても、名乗りを上げる企業があり、工場の生産計画まで考えるところまで進んでいた。

 でも、商品化できなかった。実際に商品にするということは、それを売るということだ。そのためには営業・サポートあわせて100人くらいの社員がtagtypeを覚えなくてはならない。海のものとも山のものともつかないものに、それほどのリスクはおえない。これが企業の考え方だ。

 大きな挫折ではあったが、tagtypeは死ななかった。ベネッセコーポレーションの電子学習教材「スタディーゲート」にtagtype式入力方法が採用されたし、昨年には「VAIO type U」上で動く「tagtype for VAIO」が登場した。

 この「tagtype for VAIO」。いきなりソニーの技術者の人から「こんなもの作っちゃったんですけど」と電話がかかってきたのだそうだ。田川さんが見に行くと、もうほとんど完璧にtagtypeが実装されている。これはおもしろいというので田川さん自身もプロジェクトに参加し、つくりこんでしまったというもの。

 そして、tagtypeは新たな「ゲリラ戦」に挑む。

 まず、フリーウェアとして配布されるスクリーンキーボード版のtagtypeだ(1月公開予定)。これはスクリーン上でtagtype入力を実感できるものであるのと同時に、tagtypeのフロントエンドでもある。このソフトに仕様にあったキーボードをつなげば(田川さんに言わせると、iTunesとiPodの関係だそうだ)、すぐにtagtypeを使うことができる。

photo tagtypeの公式Webサイト

 その仕様はもちろん公開される。だから、だれでもその仕様にそったキーボードを作ることができるのだ。

 そして、tagtype Garage Kitだ。プロトタイプはマテリアルとしてとても美しかったが、とっても高くつく。そこで、作りをシンプルにして(でも美しさは失わずに)、価格を半分以下にしたというのがGarage Kitだ。しかも、Kitの形で供給することで、組み立てコストもなしにして、さらに安くできる。最初に食いついてくるのはKitでもかまわないようなやつらだろう。そういうコアユーザーから広げていくことで、じわじわユーザー数を増やしてやろうというのが「ゲリラ戦」である。ユーザー数がそれなりに増えれば、腰の重い企業も動いてくれるかもしれないというわけ。

photo わきにあるのは組み立てマニュアル。既に書かれているのだ

 tagtype Garage Kitはまだ発売の予定はない。いくつ作っていいのかがわからないのだ。それによって価格も変わってくる。いくらくらいになるのだろう? 「500人で5万円、1000人で3万円。5000人ではあんまり下がらなくて2万円くらいかな。Webで予約を取ってみてって形になるでしょうね」(田川さん)

 わたしは3万なら買いたいと思う。だから、1000人集まることを期待する。そのくらいなら集まるような気がするのだけど、どうだろう。

 「tagtypeは私たちのプロトタイピングの原点である」(カタログより)のだそうだ。実際にプロトタイプを作って、それを人々に使ってもらって、その結果がまたデザインにフィードバックされるという幸せな状況が最初に実感させたものでもある。この経験が、Suicaの読み取り機や、次に紹介する「UI project」にも生きてきているのだ。

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