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デジタル分野総なめ――「2005年デジタルトップ10」麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/4 ページ)

» 2005年12月30日 23時59分 公開
[西坂真人,ITmedia]

――8位はLifeStyleのDVDレビューでも評価の高かった「オペラ座の怪人」ですね。

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麻倉氏: これはDVDとしての完成度が非常に高い作品でした。映画としての映像完成度の高さはもちろんですが、楽曲/歌唱の素晴らしさという音楽にまつわる感銘的な要素、つまりミュージカルとしての音楽の完成度が高いところにも注目したいです。原作者がプロデュースして作ったというこの作品は、舞台を彷彿させる演出だけでなく、舞台では表現し切れなかったスケールの深さや人情味のようなものを描ききっているのですが、それに加えて挿入曲の曲調と映画の画調がとてもうまくマッチしているのです。

 映像設計がなめらかで階調を大切にしつつ、なおかつコントラストをうまく高めている。暗黒の中のストーリー展開なのですが、冷たさは感じられずむしろ“血が通っている黒み”という具合に再現されています。さらに5.1chの使い方が非常にうまいですね。あるべきところにリアのチャンネルがあって、ストーリーの展開とともに、サラウンド音響が巧みに筋書きを語っていくのです。これはサラウンド文化が進展して、定着してきたからこそ家庭で楽しめるものになったと思います。

――7位は、ソニーのモノ作りの原点を雄弁に語りながらも新規開発が凍結されてしまった“不遇の逸品”「QUALIA」シリーズですね。

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麻倉氏: 今年リリースされたQUALIAの中で特に評価したいのが「QUALIA 001」ですね。すでに製品自体は製造中止になったという話を聞きましたが、非常に残念です。これに採用されている映像処理技術「DRC-MFv2」は、BRAVIAなどにも搭載されていますが、テレビに内蔵されてトータルに働く画像エンハンサというよりも、それ自身が独立した機器として動いているというところに、今後のAV機器の発展性が見えていた気がします。大画面ユーザーにとって50万円という安価……ソニー的にはこれでも高かったようですが、この価格で出てきた意義は大きいのです。わずか50万円の投資で、数百万円で買ったハイエンドプロジェクターが、その2倍以上の価値になるのですから。

 自然にエンハンスして精細感を出し、情報量を高めるというQUALIA 001は、近藤マジック(開発者のソニー業務執行取締役員上席常務 兼 A-cubed研究所・所長の近藤哲二郎氏)の真骨頂といえるもの。非常に貴重な製品であるので、大画面ユーザーは今のうちに買っておいたほうがいいでしょうね。

――6位に挙げてもらったウイルコムのW-SIM端末「TT(Tiny Talk)」は、ちょっとLifeStyleチャンネルのカテゴリから外れてしまうんですが……(苦笑)。

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麻倉氏: いえいえ、そんなことはありません。私はこの端末の“音”をとても評価しているのです。音という切り口ならLifeStyle向きでしょう。私は「電話というのは音が良くてシンプルが一番」というポリシーなので、携帯電話の音声は聴くに耐えないことから以前からウイルコムの端末を使っていました。最近入手したこのTTの音声は、とにかくクリアで音に音に深みがありS/N感が非常に高いのです。低音を絞れば音はクリアになるのですが、その分薄っぺらい音になりがち。でもこのTTはしっかりと低音も出つつ、クリアな音質を確保している。特に音の波形の立ち方が抜群。ウイルコム端末同士の通話では、話していて隣に居るみたいなイリュージョンを感じるほどです。

 先日、TTのデザインを担当した工業デザイナーの山中俊治氏に、なぜこんなに音がいいのかをたずねたところ、フタを開けてW-SIMカードを挿す構造上、スピーカーの後ろに空間ができるので音響スピーカーのようなエンクロージャー効果が生まれているのではないだろうかという答えでした。通常の端末なら電子部品でぎっしりなのに、TTではそれ自体に通信機能を有するW-SIMカードによって筐体設計に余裕が生まれた。それによる副産物が“音の良さ”だったのです。音質の素晴らしさとともに、驚異的な小ささ・軽さもとても気に入ってます。この端末を初めてみたときは、胸が震え上がりました。こんなに感動した電話はこれまでありません。本能が命ずるままに、クリック(TTはネット販売のみのため)してしまった商品です。

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