例えば、ビヨンセ率いるデスティニーチャイルドの「ライブ・イン・アトランタ」(米国盤BD)を見ると、リズムセクションの生み出す粘っこいグルーヴや3人の女性シンガーのリズム感の良さなどの表現は、AX763のほうが達者で、聴いていて楽しいのである。このノリのよさは、同社のフラグシップ機「DSP-Z11」よりも上かも? と思えるほど。物量投入できない低価格機でも、練達のエンジニアが音の狙いを定めてチューニングすれば、はるかに価格の高い製品よりも好ましい音を表現することがあるという事実が、ぼくにはとても興味深かった。
しかし一方で、これはAX863で再生したほうが明らかに良いと思えるソフトもある。中でも米国盤BDの「ACROSS THE UNIVERSE」はまさにAX863の物量投入の威力が味わえるドルビーTrue HD作品だった。
8月にわが国での劇場公開が予定されている本作は、ヴェトナム反戦運動が激しかった1960年代後半のアメリカを舞台に、リヴァプールからやってきた英国人青年とアメリカ人女子学生の恋を描いたミュージカル作品。監督は、メキシコの女流画家を主人公にした「フリーダ」でメガフォンを取ったジュリー・テイモアである。
なんといっても興味深いのは、使われている楽曲がすべてビートルズ・ナンバーだということ。物語の進行に合わせて注意深く楽曲が選ばれており、日本語字幕スーパーがなくてもビートルズ・ファンならその内容を把握するのは容易だろう。曲のアレンジもとても素晴らしく、音楽を聴くように映画を楽しめる、まさにホームシアターのためのBlu-ray Discである。
舞台となる60年代の雰囲気を濃厚に伝える画質の素晴らしさ、音のよさも格別。ただし、本作のドルビーTrue HD音声は平均音圧レベルがやや低く、AVアンプの本質的なドライバビリティを厳しく問いかけてくる難物でもある。
よくできたPV(プロモーションビデオ)のように、一部を繰り返し見て楽しめる本作、ぼくが何度も見ているのは、ゴスペルクワイアが歌う「レット・イット・ビー」がフィーチャーされた葬式場面の後、「カム・トゥゲザー」に移行するところ。バスのワイパーの動きに同期するように「カム・トゥゲザー」のイントロが始まり、ジョー・コッカーと思しき人物が役柄を変えて、歌い継いでいく。その編集センスが素晴らしく、いつも我を忘れて見入ってしまうのだが、デスチャのライブBDと違って、このシークエンスではAX863の電源部の余裕が生きているのか、AX763よりも密度感の高い再生音がサラウンド空間を埋めつくす印象を受けた。
試聴時には、サラウンドスピーカーを2本用意した5.1ch環境を構築したが、この場合、7chアンプ構成のAX863はパワーアンプが2ch分余ることになる。使用したフロントスピーカーが、低域側と高域側にそれぞれ入力端子を持たせたバイワイアリング接続可能なモデルだったので、余った2ch分のアンプが活かせるバイアンプ接続を試してみた。低域側、高域側にそれぞれ独立してアンプを充てる接続法である。
この本格的な駆動法を採ることで、AX863はがぜん本領を発揮、同接続時のAX763とは明らかに異なる音場のスケール感を味合わせてくれたのだった。サラウンドバック用スピーカーが置けない(または置かない)5.1chシステムを実践されている方で、バイワイアリング入力端子を持ったフロントスピーカーをお使いの方は、ぜひこのフロントバイアンプ駆動法をお試しいただきたい。AX863の音の良さに、改めてほれ直す結果になるのではないかと思う。
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