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コラム
» 2008年06月23日 10時00分 公開

ねじれがねじれを産み続ける補償金と機器の関係小寺信良の現象試考(3/3 ページ)

[小寺信良,ITmedia]
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誰が環境を作るべきか

 結局のところ、補償金の額を増やすためには、もっと大きな市場でいまだに補償金がかかっていないものを対象にするしかない。レコーダー市場なんて、昔のVHSの販売台数に比べたらまだ微々たるものだし、そこそこ高額商品なので、そうそう買い換え、買い足しもしない。

 この際、HDD課金ということすら大した問題ではないように思う。もはやHDDは、AVメディアとしては斜陽になりつつある。iPodの大容量モデルも、ほどなくSSDになるだろう。HDDレコーダーは、DVDドライブが搭載されている時点で課金済みだ。

 今、補償金の対象にすれば飛躍的に収入が増えそうなターゲットは、携帯電話である。iPodじゃないのか? と思われるかもしれないが、携帯電話の出荷台数と比べたら、iPodなど物の数ではない。JEITAはiPod課金に一生懸命反対しているが、実は反対する義理は何もない。なにせ米Appleもアップルジャパンも、JEITA会員ではないのだ。これは全くの私見だが、国内メーカーにしてみれば敵であるはずの輸入製品を必死になって守ってやっているその裏側には、iPod課金に反対すれば消費者の賛同が得られることプラス、携帯電話課金へのはしごを外すという思惑があるのではないのだろうか。

 最終的には総務省まで出てきて、なんとしてもオリンピックまでに実現する見込みのダビング10だが、実は認知度の低さのあまり、延期になってもほとんど販売の現場に影響がなかったというデータも飛び出してきた。もうなんだかやってることと結果が、全然噛み合っておらず、ほとんどの人はここまで読んで呆れているのではないか。

 たぶんこのまま「適正な対価を得られる環境」作りで機器メーカーと権利団体でやりあっていても、決着は着かずに共倒れするだけである。従来型の収録メディア販売とその再生・記録機という関係は、どっちみち徐々に衰退していくのだ。クリエーターへの利益還元は何らかの形で行なわなければならないわけだが、それだったら現状動作している録音録画補償金システムを解体して、インフラのところへ組み込んだ方がいい。

 つまり「補償」の考え方をひっくり返すわけだ。これまでは、自由にコピーされることで起こると仮定される想像上の被害に対して、補償を行なってきた。だがダビング10にしても携帯電話にしても、それ以上のコピーができない。一方著作者も、自分たちのコンテンツは広く流通して欲しいと願っている。結局のところ、自由なコンテンツの利用を妨げているのは、自分たちの「オールドスタイルの」ビジネスモデルを守りたいインフラだけである。

 これから何らかの補償金を負担するのは、自由なコンテンツ流通に対して制限を加えている放送局と通信企業にすればいいのではないか。「制限補償」という考え方である。そもそもコピーされるのをいやがっているのは放送局であるわけだし、本当に番組制作に関わったのは誰かを把握しているのも、放送局だ。それらの人への還元を正しく行なう道義的責任がある。

 一方誰が誰のコンテンツをどれだけ買ったかまでを把握できるのは、通信業者以外にない。彼らはこれまで、ネットによるダウンロード販売とはまったく別の手法で、バックアップも認めない形でのコンテンツ流通で儲かってきたわけだから、携帯電話という個別のハードウェアから徴収するよりも理に適っている。ダイレクト課金システムへ転換するためには、通信業界が音頭を取ってやらないかぎり、外側からわあわあ言って靴の上から足をかくようなことをしたって、常に時代遅れのシステムになるだけだ。

 具体的にはSARAHとSARVHは解体して、NHKと民放連の集合体で日本中の全テレビ所有者情報を保持しているB-CASと東西NTTにこの機能を組み込み、お互いに監視義務を持たせ、クリエーターへの還元を行なえばいい。双方すんごく仲悪そうなので、ガッツリ見張り合うだろう。放送・通信業界は、いつまでも「私たちはただのインフラですから」では済まされないほど、この問題に深く介入してきている。力を使うなら責任も果たして貰わないと、バランスの取れた世の中にはならないだろう。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。

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