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3Dテレビの“鉄則” 視聴編麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/2 ページ)

» 2010年05月18日 10時00分 公開
[聞き手:芹澤隆徳,ITmedia]
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 要するに、3Dテレビはまだ未成熟なのです。2Dの映像で問題になるのは視野角くらいで、そのほかはほとんど合格のレベルにまできましたが、3Dはその環境作りからまだまだやることが多いと思います。

photo ちょっと近いです

3D視聴の三原則+α

  • 視聴距離は3H
  • 視線は画面のセンターに
  • 頭を傾けてはいけない
  • 子どもは5歳まで見てはいけない

――コンテンツ側の課題もいろいろとあります

麻倉氏: 3D映像を制作する際には、極端に飛び出しを強調しないとか、画面の端に手などがかかると影響が出るといったことですね。2D-3Dの変換で奥行き感が狂うこともあります。

 パナソニックが3Dビエラの発売に合わせ、CSの「フジテレビネクスト」でアリスのライブを3D放送したのですが、面白かったのは、すごく実験的な試みが多く見られたことです。料亭でのトークシーンは、全部違うカメラでした。堀内さんは3Dカメラ、矢沢さん、谷村さんは3Dもしくは2Dのカメラ。3D映像の途中で2Dのシーンが出てきたり、テロップを3Dで出してみたり、そして2Dで撮影した映像を3Dに変換した部分もありました。

3D アリス〜東京ドーム『明日への讃歌』をCS初の3D放送!〜

 パナソニック“3D VIERA”と“3D DIGA”の発売日合わせ、4月23日の19時からフジテレビNEXTで放送したCS初の3D番組。2月28日に行われたアリスの東京ドーム公演「明日への讃歌」を5台の3Dカメラで収録。さらにリハーサル風景などのドキュメントシーンも3D収録して、1時間の特別版として放送された。次回放送は未定。


 例えば、トークを俯瞰(ふかん)するカメラの映像です。明らかに2D→3D変換と分かるのは、部分的にすごく変だったから。矢沢さんの来ているオレンジのジャンパーが妙に前に出て、横にある赤い棚が前に出てきたりしていました。

 これは、おそらく某社の業務用3Dイメージプロセッサを試しに使ったのではないでしょうか。人間の視覚には、手前に感じる色「前進色」と、奥に感じる色「後退色」があり、この2D→3D変換技術では、映像の色から奥行き情報を設定し、赤いものを手前に、青いものを奥に配置させてステレオ映像を作り出すというのです。

 確かに効果はありました。しかし、今回は部分的にアンバランスに見えてしまいましたね。制作側も初めての試みですから、少し誇張気味の設定で使用したのではないでしょうか。今後は少し立体効果を抑え気味にすれば良いと思います。

 制作側が「どういったアングルが3Dコンテンツにふさわしいか?」と実験していることもうかがえて、とても面白かったです。3D映像の途中に2D映像が挿入されていたのですが、それを意外と違和感なく見てしまうことも分かりました。時間がたつと3Dの効果に慣れてきて、2Dが入っても違いが分かりにくくなるのです。3D効果は当たり前になり、コンテンツに注意が入っているからですね。

 東京ドームのコンサートシーンでは、解像度不足を補うために局側で輪郭補正していました。サイド・バイ・サイドの解像度不足はネックです。今、フジテレビネクストは1440×1080ピクセルの3/4ハイビジョンで放送しています。サイド・バイ・サイドでは、横方向が720ピクセルしかありません。それをフルハイビジョンに拡大しているため、粗さ、密度の薄さは感じました。やはり、3D放送に対してはテレビのほうで超解像処理などを行い、フルHD的なフレーバーを映像に与えることが重要だと改めて感じました。

 まとめますと、3Dの立体効果というのは、コンテンツの“入り口”なんです。視聴者はずっと立体効果に注目しているわけではなく、次第にコンテンツの内容に意識が移っていくもの。3Dアリスを見て、そのあたりの仕組みも分かってきましたね。

麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴

 1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNの CD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。

 現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。

著作

「ホームシアターの作法」(ソフトバンク新書、2009年)――初心者以上マニア未満のAVファンへ贈る、実用的なホームシアター指南書。

「究極のテレビを創れ!」(技術評論社、2009年)――高画質への闘いを挑んだ技術者を追った「オーディオの作法」(ソフトバンククリエイティブ、2008年)――音楽を楽しむための、よい音と付き合う64の作法

「絶対ハイビジョン主義」(アスキー新書、2008年)――身近になったハイビジョンの世界を堪能しつくすためのバイブル

「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書

「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる

「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く

「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語

「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略

「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析

「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた

「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望

「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語

「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究

「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント


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