今年も盛況のうちに閉幕したアジア最大級のITエレクトロニクス展示会「CEATEC JAPAN」。台風の影響などもあり、会期中の動員数は約15万人と昨年を下回ったが、“3D CEATEC”と言われるなどテレビの未来を指し示す展示も数多く見られた。
デジタルメディア評論家の麻倉怜士氏による月イチ連載『麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」』。会期中も取材活動や各種講演を精力的にこなす麻倉氏の見つけた、日常品(コモディティ)化の進むテレビ市場を打破する、2つの潮流について語ってもらった。
麻倉氏: 今年のCEATECですが、大手メーカーの出展が少なく、正直、さみしい感じは否めませんでした。ですが、AVについては「3D」とCell REGZAに代表される「デジタル時代ならではのもの作り」という潮流が見えたのは興味深いところです。
昨年のCEATECでもパナソニックが3Dの展示を行っていますが、今年は各社が大々的に展示を行っており、まさに“3D CEATEC”ともいうべき会場でした。では、なぜここまで各社が積極的にとりくむのでしょう。その理由はいくつかあります。
まずはメーカー側の思惑です。テレビは「薄型化」「高解像度化」「高機能化」と進化してきましたが、2D表現においてはある程度のレベルに達した――ブラウン管をしのぐ域まで達したともいえるでしょう――ため、「3D」という新しい差別化を図りたいという思惑があるからです。
もうひとつの大きな理由はハリウッドの意向です。3Dアニメーション映画「チキン・リトル」のヒットなどもあり、アメリカでの劇場アニメは“3Dじゃないとヒットしない”という状況になっていますし、入場料を高く設定することもできます。今年はハリウッド各スタジオから、合計20本ほどの劇場向け新作3Dタイトルがリリースされるようです。
さらにはBlu-ray Disc普及促進という側面も見逃せません。普及したとはいえ、まだまだDVDのほうがBDより多くリリースされていますので、“3Dに対応可能なBD”をうたうことで、メディアチェンジの決定打としたい意向があります。
このような家電メーカーとハリウッドのホームエンターテイメント部門の思惑が一致した動きは、年頭のInternational CESから見えていました。そこにBDの3D対応が年末にも実現しそうだという流れが後押しし、今回のCEATECでは各社が家庭用3Dシステムの展示を精力的に行ったのです。
CEATECでは技術展示を行ったシャープと三菱電機を含めた各社が3Dの展示を行いましたが、第一に挙げるべきはパナソニックです。昨年の展示でも大いに自然さは感じましたが、今年はさらに画質を向上させたことが分かりました。それは映像づくりからディスプレイ、メガネまでトータルでの見直しが行われた成果ですね。
現在、3D制作で最も進んでいるのはハリウッドCGアニメです。奥行き方向への3Dですが、とても自然で、誇張もなく、人物が丸みをおびて見えます。長時間観ていても疲れが少ないのです。今回のパナソニックのデモでは、同社製作の3Dクリップで倉庫のF1カーに逆光が差すシーンでは、表面の金属がブリリアントに輝き、神々しいまでの質感を感じました。
パナソニックの方によれば、2Dで見る場合と3Dで見る場合では、3Dの方が輝きや質感が向上して見えるそうです。なぜそうなるかは研究中ですが、両目で違う絵を見ると視差が違うことにより質感が向上して見える――反射質感の光などのテクスチャー輝きは、2Dでは表現しきれないのではないか――ようだという仮説が出ているそうです。
人間は両眼視差だけではなく水晶体の動きなどさまざまな要素から立体を感じ取りますが、多くの3D技術は両眼視差しか利用していません。結果、書き割り効果や移動効果、箱庭効果など、不自然さが残ってしまうのです。
ソニーの展示していた「ハイフレームレート単眼レンズ3Dレンズカメラ」で撮影した3D映像は、キラキラ感というか輝きがおとなしい感じも受けますが、被写体に厚みが感じられない「書き割り効果」が少なくなく比較的、自然に感じられます。これまでの3D映像に違和感を覚える、3Dアレルギーともいえる反応をぬぐい去るこのとのできるカメラといえ、まさに適切なタイミングで展示されたと思います。
画質とはこれまで2Dのなかで磨き上げられてきましたが、これからは、3Dならではの新しい画質表現、質感表現という道が開けそうだと感じました。
パナソニックはメガネのシャッター間隔を狭めることで自然さを作り出していますが、そうなると目に入る映像としては暗くなってしまいます。対策としてはメガネの透過率を上げるほか、ディスプレイ(プラズマ)を明るくするなどがあります。特に後者は自発光であるプラズマパネルを有する同社ならではの解決法であり、「3Dならプラズマ」というメッセージに見えるのです。
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