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CEATECに見えた、“非日用品”テレビを目指す2つの潮流麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/3 ページ)

» 2009年10月21日 11時00分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

3Dが本当にブレイクするために必要なものとは

麻倉氏: ですが、液晶で3Dは表現できないかと言えば、そんなことはないのです。素晴らしかったのはシャープで、まさにダークホースといえるでしょう。「液晶はリフレッシュの動きが遅く、フィールドシーケンシャル方式の3Dではクロストークが出てしまい見にくい」というのが定説でしたが、新開発したUV2A液晶を使うことで改善してきました。立ち上がり(応答速度)が速くなる新型液晶とLEDバックライト、240MHz駆動の組み合わせは液晶3Dでの可能性を感じさせます。

photo UV2A液晶で3D展示を行ったシャープ

 デモ映像はクロストークが少なく、広ダイナミックレンジでした。メガネを掛けるとどうしても画面は暗く見えてしまいますから、全白/黒間のダイナミックレンジを広くすることでカバーしています。液晶らしいギラギラ感は残っていますが、それはむしろ液晶らしさともいえるものです。“液晶のシャープ”としてのスタンスを保ったまま、未来を感じさせる素晴らしいもの作りをしてきたと感じました。

 ソニーはゲームや映画、ドキュメントなど見せ方を工夫してきました。3Dゲームを試しましたが、計算された空間での3Dゲームは本当の意味での3Dですし、PS3ならではの高精細で、非常に楽しめました。ただ、ソニーの3D映像はダイナミックレンジが狭いのです。また、同じ液晶でもシャープに比較するとシャープはとても明るく、ソニーはおっとりまでいかないのですが、ダイナミックレンジが狭いのです。CCFL的な見え方で、LEDバックライトらしい透明感を感じられませんでしたし、映画やスポーツをみると、クロストークも散見されました。

photo ソニーはゲームや映画、スポーツなどさまざまなコンテンツを3Dで見せるデモを行った

 これは撮影時の環境にもよるのですが、ソニーのブースでデモされていた映像の中にはS/Nが今ひとつなものや、両眼視差のつきすぎているものも見受けられ、液晶ディスプレイを使う3Dの見せ方としては、いまひとつの技術として完成に至っていない印象です。

 パナソニック/シャープ/ソニーの3社を比べると、垂直統合のパナソニックとシャープは自社で3Dに適したパネルを作り出せるのに対して、ソニーは、合弁企業とはいえS-LCD製パネルを使わざるを得ないため、垂直統合の力を生かし切れていなかったように思えます。3D技術は発展途上未発達なので、垂直統合の果たすところは大きいのです。それが垣間見えました。

 NICT(情報通信研究機構)の展示した3Dディスプレイは、スクリーン背面にプロジェクタアレイを複数配置して映像を複数投射することで、メガネなしでの多視点立体視を可能にしています。デモシステムは画素が1億以上となっているので、45のカメラで撮って45のプロジェクターで投射したと思われます。昨年の同システムに比べると、移動した際の境界線が薄くなりましたが、まだ縦線が気になりました。しかし、45チャンネルのフルHDでもこの程度なのですから、高画質な裸眼3Dの実現はまだまだ先ですね。

 同じNICTの展示で面白かったのが、映像が立体なら音も立体という、立体音響システムです。音源を1つのボールとして、前の音も後ろの音もすべて立体として再生します。あたかもそこに演奏者がいるように聞こえるので、そこにホログラム映像があれば、“超臨場感”を得られるでしょう。現在のハイビジョンのように、基礎研究が新たな表現を作り出すといった事例もありますので、可能性を感じさせますね。

photophoto NICTの展示していた多視点裸眼立体視システム(写真=左)、立体音響システム(写真=右)

 3Dは対応するディスプレイとメディア(BD)、プレーヤーの2010年登場がほぼ確実ですし、それから発展していくでしょう。ただ、指摘したよう、3D映像はBDの普及材として使われる側面もあります。そうなると、3D映像はBDユーザーの楽しみにしか過ぎない状況となる可能性があります。3Dが楽しいもので全体的な普及を目指すならば、テレビ放送の3D化が望ましいのですが、撮影機器からすべて3D対応とするのには膨大な時間とコストがかかります。

 そうなると、2D/3D変換システムがクローズアップされます。東芝がCell REGZA展示の一角で行っていましたが、かなりの将来性を感じられました。2Dで送信されてきた映像をテレビのプロセッサパワーで3D化する、つまりは“視たいときに、見たい映像が、見たい感じに3D化される”――これの実現する時こそ、本当に3Dがブレイクする時ではないでしょうか。

photo 東芝はCell REGZAのプロセッサパワーを利用した2D/3D変換システムを参考展示していた

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