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2012年、薄型テレビ市場はどうなる?本田雅一のTV Style

» 2011年12月26日 19時34分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 年末のコラムでは、その年を振り返ったり、来年の予想をしたりといった内容が増えてくるが、本連載もやはりその路線で今年を締めくくりたい。

 この連載「本田雅一のTV Style」は、+D Lifestyleの編集部の前任者が地上デジタル放送の開始、地上アナログ放送の停止といったイベントを背景に、テレビに特化したコラムを……と依頼されたのが始まりだ。そうした意味では、今年の7月には当初の目標だった地上アナログ放送の終了というイベントを無事に迎えることができたといえる。

 アナログ停波後、国内のテレビ市場は一変した。ただ、一部の新聞などで話題になったように、電機メーカーがテレビをもう作らなくなるといったことは、あまり現実的な話題だとは思えない。この連載でも何度か書いているように、デジタルテレビへの買い替え需要の反動が起きることは、メーカーも覚悟していたことだ。

 実は昨年末、電機業界の動向に興味を持つ色々な人たちと話をしていると、「買い替え時期が集中するとメーカーにとって売上が上がるから、きっと喜んでいるのだろう」という方が意外に多かった。しかし、買い替えが一時期に集中すると価格競争が激しくなり、急速に低価格化が進みすぎ、メーカーにとってあまり好ましい状況ではなくなる。短期的にはプラスになっても、中長期で見ると良いことはない。しかも一度、買い替えタイミングがかたよると、長期間にわたってその影響は続いていく。

 加えて2011年は、東日本大震災や電力不足、対ユーロ/対ドルの同時円高に不況の嵐と、エンターテイメント製品の一種でもあるテレビ業界は、昨年までの”儲からない”を超えて収益性の低い事業になってきた。来年以降は海外への生産移転が急速に進み、メーカーはバランスシートの改善に向けた構造改革を進めることになるだろう。

 では、日本のテレビはどうなるのだろう? すべてのテレビが、成熟製品としてコスト削減を重視した製品ばかりになっていくのだろうか?

 いやいや、おそらく従来と同じような高付加価値路線は残っていくだろう。テレビの場合、地域ごとに求められる製品のタイプが異なる。日本の場合、録画機能や画質が重視される傾向は強かった。全番組録画など東芝が先導してきた録画機能の充実は、まだ広がりを見せるのではないだろうか。

 一方、ネットコンテンツの充実も進むだろう。

 パナソニックAVC社の社長・津賀一宏氏は、年末の役員懇親会で「ネットが強くなってきているといっても、まだまだテレビ放送は強く視聴者数では他メディアの追随を許さない。だから、パナソニックがテレビをやめることも、テレビをおざなりにすることもない。しかし、そんなコンテンツの王様であるテレビ放送を受信できるテレビの価格トレンドがこれだけ下ぶれしているのだから、そのテレビを使って放送以外のコンテンツでビジネスをしない手はないですよね」と話した。おそらくどのメーカーも同じことを考えているのではないだろうか。

 高精細で大画面のテレビは、高精細で大画面のディスプレイとしても利用できる。ネットワークにつながったディスプレイとして捉えれば、テレビ向けに有料コンテンツの配信を……と考えるのは自然な流れだろう。単に映像配信だけでなく、多様なデジタルコンテンツが、テレビ向けに配信されるようになるのか、それともマルチデバイス向け配信に対応する一部のハードウェア分野となるのか。

毎年「International CES」が開催されるラスベガスのLVCC(Las Vegas Convention Center)

 今年はさまざまな理由から身動きが取りづらかった日本のテレビ業界だが、来年は新たな可能性を求めての”仕込み”に挑戦するメーカーも増えてくるのではないか。過去に何度も繰り返されてきた、「通信と放送の融合」というテーマ。これに対する真剣な議論が、来年は進むように思う。

 まずは1月。米ラスベガスで開催される「International CES」(コンシューマー・エレクトロニクスショー)で、業界は幕を開けることになる。

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