毎年10月は、すべてのメーカーが発売するテレビをチェックしてまわる。単にスペックを調べてお店で見るというわけではなく、試聴室で心ゆくまで画質や機能を確認するのだ。すべてのメーカーが販売する主要なテレビを同時期に見ることで、業界の状況が明瞭(めいりょう)に見えてくる。
2011年年末の明確な傾向は、まず上位モデルと下位モデルへの二極化が挙げられるだろう。その原因は昨年のエコポイント、今年の地デジ移行にあるということは、この連載で何度も指摘してきた。
今年は“テレビ不況の年”といわれ、前年の半分しかテレビは売れないだろうとされてきた。とはいえ、昨年は過去最高の売上げを記録しており、たとえ販売台数が半分以下になったとしても、それは想定の範囲内。今年、日本市場でのテレビは1000万台前後の販売台数になるだろうが、実のところこれは例年と同じか、少し多いぐらいなのだ。これはアナログ停波での需要があったためで、来年は700万台以下になると考えているところが多い。
しかし、ここで誤解をしないようにしたい。”今後数年は国内でテレビ売れない時期が続く”というのも、あらかじめ予想されていたことだ。昨年から今年の前半にかけてテレビが飛ぶように売れたのも行政の方針によって起こった人工的な”波”であり、メーカーはそれに合わせて製品計画を作ってきた。したがって、”テレビ不況”というのは間違い。テレビの需要は、長い間、(台数ベースでは)伸びてもおらず、縮んでもいない。単に波風が立つ外的要因があっただけということである。
そして、この年末にテレビが二極化するのは、こうした波に対処するためである。
今年のテレビ販売の山は7月にあった。7月のアナログ停波前後にあわててテレビを買い替える消費者は、おそらく普段からあまりテレビを見ていない、使っていない層だと考えられる。彼らは大型テレビは決して買わないが、”より良い製品”を求めていないわけではない。
ところが昨年などは、小型で画質が良く、機能面も充実したテレビというのは、実はあまり多くなかった。小型製品は販売単価が安いため、高機能化しようにもコスト面でペイしないのである。しかし、小型でもより良い製品がいい、という方がいるのなら、きちんと上位モデルに近い機能を持たせた小型・高機能モデルがあった方がいいのは自明だ。ということで、ローエンド製品が強化される。
その一方で、ミドルクラスのテレビは、エコポイントにおける販売競争の激化により、販売単価が極端に下がってしまった。今の時代、一度下がった価格を再び上げるのは並大抵のことではない。しかも、販売台数が大幅に減ることで収益性は大きく下がってしまう。
そこでメーカーは、収益性が下がり、あまり多くの手間をかけることができなくなってきたミドルクラスの大画面テレビではなく、ハイエンド製品に力を入れることで、ブランド強化を図ろうとしている。昨年よりも今年の方が、最上位モデルに秀作が多いのは、そうした背景を反映してのことだ。
と、そんな背景事情を想像しながら各社を回っていたら、ちょっとビックリするぐらいに良くなっていた製品があった。次週はその製品について話をしたい。
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