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4Kテレビのコンテンツ問題は解消した――「CEATEC JAPAN 2012」総括(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/2 ページ)

» 2012年10月16日 14時03分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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――CEATECの展示会場で一番良かったのはどちらのブースですか?

 感銘を受けたのは、シャープブースの「ICC LED-TV」です。ベルリンショー(IFA 2012)のときも詳しく話しましたが、ICCはもともと2Kのコンテンツに対し、2Kでは得られない現場感、臨場感の世界を提供してくれます。視聴会では上高地と芦ノ湖のデモ映像を見ました。まず、細かい部分にもテクスチャーが出てきて、2KオリジナルのフルHD)とは比べものにならない精細感あります。これに関しては他社の超解像技術も同じでしょう。

「ICC LED-TV」のシアターは行列が絶えない(左)。ICCを開発したアイキューブド(I3)研究所の近藤哲二郎代表(右)

 ICCがすごいのは、画面内にあるオブジェクト同士の関係が分かること。デモ映像の中に猿の映像がありましたが、猿と背景の木の枝が、それぞれの位置関係や存在感を示していました。それは、臨場感というものとは違います。実際にオブジェクト同士の空間関係式をきっちり出して、生の精細感を出さなければ、そんな映像はできません。

 また近藤さん(アイキューブド研究所の近藤哲二郎代表)は臨場感を感じめ空間密度の指標として、1ミリの間に3本の走査線を持つことを挙げています。60インチで4Kの解像度を持つテレビを2メートル離れた場所で見ると、適正な映像を視聴できるそうです。しかし、例えば80インチにすると4Kでも解像度が足りなくなりますから、8Kパネルの導入も考えなければならないかもしれません。

 また、ICCのテレビが従来の製品と異なるのは、フォーカスです。ブラウン管時代は、真ん中にフォーカスがきて、周辺はボケるのが普通でした。しかし、中央だけではなく、周囲もきちっとしたフォーカスがあることがICCでは必須です。「人為的にぼかす」ということは近藤さんの辞書にはありません。映画の世界とは違い、少なくとも風景映像やドキュメンタリーなど、情報性が重要な映像で大切なのは、周辺部のフォーカスです。それも含めてミリ3本の密度が必要ということでしょう。

 今回、近藤さんのアイキューブド研究所は、たまたまシャープと組みましたが、同社にはソニーとシャープが出資していますから、将来的にシャープ以外のメーカーからICC搭載テレビが出てきても不思議ではありません。ただし、前回も触れましたが、出来合いのパネルを買ってきて、ICCを入れるだけでは到底ものにはできません。実際、シャープは緊急プロジェクトを作り、天理と矢板から人を集め(いずれもシャープの事業所)、徹底的にパネルをたたき直したそうです。例えば、民生用の量産パネルは結構いい加減なものですが、ICCでは徹底した画面の均一性(ユニフォミティー)が重要。ICC LED-TVが直下型バックライトとローカルディミングを使うのも画面輝度の均一性を担保するためです。1画素単位で均一でなければならないそうです。

 ICCのすごいところは、臨場感、没入感など、あらゆる面でフルHDよりも良好であることです。4Kのコンテンツ問題は解決したと言いましたが、ICCこそ“フルHDが届かない領域に踏み込んだ”といえるでしょう。

モスアイパネルは期待の新製品

 もう1つ、シャープはモスアイパネルもユニークでした。その名の通り“蛾の目”の構造を参考にした、いわゆる“ネイチャーテクノロジー”の1つで、光沢処理と同様のグロッシーで沈んだ黒を表現しつつ、外光の映り込みを抑えることができます。

モスアイパネル搭載AQUOS

 シャープは、2000年頃に液晶テレビを売り出す際、ブラウン管と違う質感を求めて画面をノングレアにしました。PC用ディスプレイなどと同じ構造で、映り込みを防ぐ効果もありますが、一方でその映像は質感がおっとりしてしまいます。

 薄型テレビの黎明期はそれがスタンダードでしたが、数年前に異を唱えるメーカーが現れ、まずPCディスプレイの分野でグレア液晶パネルが登場しました。さらにテレビに取り入れたのが三菱電機で、他社も追随して現在はグレアのオンパレードです。ただ、最大の問題点は「自分の顔が映り込む」ことであり、私は三菱電機が最初に光沢液晶パネルを採用したときから指摘しています。

 一方、モスアイの基礎技術は以前から研究されていましたが、大日本印刷が実用化に成功し、それをテレビに持ち込んだのがシャープです。シャープブースで新製品を見ることができましたが、気持ちの良いグレア感があり、またクアトロンパネルの持つ色再現性の高さについて、やっと本来の実力を発揮できたという印象も受けました。これが秋の新製品に搭載されるはずなので、楽しみですね。

――後編ではクラリオンのフルデジタルスピーカー、東芝のクラウドサービス「TimeOn」などについて聞いていきます

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