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“4K”推進で一致した家電業界、その道のりに横たわる多くの課題本田雅一のIFA GPCリポート(2/2 ページ)

» 2013年04月21日 18時34分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 4K2K解像度を本当の意味で生かそうとするなら、フレームレートも上げていかねばならない。動きボケがあっては、画素数だけが上がっても、体感的な精細度は限られた条件でなければ上がらないからだ。一方で画素数が増えればフレームレートを上昇させるのは難しくなり、また動き検出に必要な処理能力も大きくなる。そもそも、60インチ以上でなければ高解像度が求められないだろう、という仮説のもとに、全体の5%にも満たない60インチ以上大型テレビの市場に、次世代テレビの未来を託して良いのかという議論も存在する。

 これらのハードルは、いずれも時間が解決するものであり、さまざまな障害があったとしても、4K2Kの方向に向かうというのが全体を通しても論調であった。言い換えれば、ほかに進む道がないともいえる。

 この方向、すなわち4K2Kへと敷かれた業界のレールは、日本のテレビメーカーにとっては、(当面、放送の主流がフルHDであることは間違いないため)アップコンバートなど画質面で訴求しやすいなどの利点はあるかもしれない。しかし、中国メーカーが現時点で4K2Kテレビに照準を定めて製品開発を行っており、果たしてうまく利益を創出できるのか? というと難しい側面もある。数字として比較しやすいパネル解像度が同じならば、安い方がいいという顧客はとても多いからだ。

1月のCESでは、写真のハイセンスブースをはじめ、ハイアール、TCLといった中国メーカーがそろって4Kテレビを参考展示。その存在感を示した

 しかし、4K2Kテレビへの道が整ってきたことで厳しいビジネスを強いられるという意味では、韓国メーカーの2社の方が厳しいのではないだろうか。サムスンとLGは両社とも、液晶パネル生産事業の収益性低下を見込んで、早めに有機ELパネルの本格生産を始めようと準備を進めた。55インチの有機ELテレビ発売を予告したのは、実に1年以上前の2012年1月である。歩留まりが悪く逆ざやになったとしても、生産に関する経験値を溜めていくことが重要と判断したためだ。

 そのため、サムスンが声高に4K2Kへのフォーカスをいい始めたことの意味は大きい。LGはGPCに参加していないが、同様に4K2Kへの歩みを強めている。両社とも戦略的に液晶以外の技術へと踏み出したいものの、有機ELパネルの歩留まり改善が進みが予想以上に悪く、液晶にとどまらねばならない現実があるからだろう。

 液晶パネルが4K2K化している中で、100万円もする大型の有機ELテレビがフルHD解像度に留まるようでは(画質面では問題がないとしても)高額製品としての競争力がない。では有機ELディスプレイを4K2K化すれば良いということになるが、さらなる大型化という難題が待ち受ける。前述したように4K2Kの良さが現れる下限は55インチ。60インチ以上の大型パネルで威力が発揮できる。大型化が困難な有機ELディスプレイにとって4K2Kへの流れは厳しい。

 こうした背景の中で4K2Kにサムスンが力を入れるということは、当面は液晶を作り続ける覚悟を示すものだろう。今後、彼らは液晶パネルの生産において台湾、中国のメーカーと競っていかねばならない。

 一方、まだ準備が整っていない4K2Kへの道のりに関しては、サムスンが興味深い提案を行った。サムスンの4K2Kテレビは、「Samusung UHD TV 85” S9」というが、S9とは「Series 9」の意味で、昨今サムスンがハイエンドシリーズのみに付けている番号だ。この製品はHDMI、映像処理LSI、描画用LSI、CPUなどのコンポーネントをアップグレード可能にしている。つまり、4K2Kの放送に対応するデコーダーやチューナー、新しいHDMIや新しいDRM、HEVC対応や4K2Kでの画像処理、アップコンバートなどについて、バックエンドのボードを交換することで対応しようというわけだ。

サムスンが紹介した「Samusung UHD TV 85” S9」。ボード交換でアップグレートが可能になっている

 実際に、どの程度のアップグレードが実行されるのか(実行できるのか)、現時点ですべての可能性を約束はできないはずだが、素早く新しいフォーマットへの移行をドライブしていこうというのであれば、ある程度は必要な措置になってくるかもしれない。

 この製品を含め、各社が4K2K時代へどう対応していくのか、9月にベルリンで開催されるIFAでは、製品戦略や放送規格の標準化、HEVCを使った4K2Kストリーミングサービスなどの動向が明らかになってくるだろう。

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