「CX-A5000/MX-A5000」をバランス接続し、まずCX-A5000のネットワークオーディオ再生機能を用いて2チャンネル再生で愛聴ハイレゾファイルをいくつか聴いてみた(スピーカーはB&W 802D)。驚いたのは、その音の透明度と類稀な低音の安定感の高さだった。この夏発売された「RX-A3030」を聴いたときにも、ネットワークオーディオ再生時のクリーンな音に驚かされたが、CX-A5000/MX-A5000Hは音の清らかさや抜けのよさではるか上をいく印象だ。筐体内部にさまざまなノイズ発生源を抱えるAVアンプで、ここまでここまでS/N比のよい音を聴かせてくれるのは、ちょっとした驚きだ。
ネットワークオーディオのストリーミング再生は、ディスク再生に比べて総じて低音の安定度で上回るが、本機のそれはまさにAVアンプの常識を覆す安定度の高さといってよい。深く沈み込むキックドラムやよく弾むベースの聴き心地のよさは抜群で、高級スピーカーをしっかりグリップするMX-A5000の実力の高さも相当なものだと実感した。
最近観てそのダイナミックな音響設計に感心した映画Blu-ray Disc、DTS HDマスターオーディオ7.1ch収録の「オズ はじまりの戦い」をストレートデコードとシネマDSP 11.2ch再生を比較してみたが、圧倒的にすばらしかったのは後者だった。ストレートデコード時もピュアダイレクト・モードにしなければ、部屋の不要な反射音をキャンセルするPEQ がはたらくが(フラット・ターゲット時)、それでも「Drama」「Scifi」「Adventure」などのシネマDSPモードと比較すると、音場のつながりが希薄に感じられてしまうのだ。
主人公のオズが気球に乗って竜巻に遭遇する場面など、そのダイナミックな音響設計が完璧な精度で再現されるとともに、音場がキューブ上に三次元的に展開され、その立体音響効果のすばらしさに息をのんだ。フロントプレゼンススピーカーとL/Rスピーカー、リアプレゼンススピーカーとサラウンドL/Rスピーカー間に垂直方向の“ひびき成分のステレオフォニック”が形成されることで、通常のサラウンド再生では得られない、音空間に疎密が感じられない360度立体音場が形成されるのである。これはほんとうに病み付きになる面白さだ。
1960年代の古いフランス映画「シベールの日曜日」をシネマDSPの「Mono Movie」モードで聴いたサウンドもすばらしかった。収録されたモノ2.0ch音声が5.1chふうにサラウンドサウンド化されるのではなく、モノーラル音声ならではの迫真性、求心力が失われることなく、このモードによって生成されるリッチなひびきが、ぼくの記憶の中にある映画館に連れていってくれるのである。とくにダイアローグがスクリーンの奥から聴こえてくるイリュージョンが得られるのが、このモードの驚くべき成果。その美しいひびきを心ゆくまで堪能した。
またどのシネマDSPモードで映画を再生しても、ダイアローグの明瞭度がいささかも失われないこともCX-A5000/MX-A5000の美点として挙げられる。シネマDSPモードを切り替えるたびに「音質」は変わらず「音場のサイズ」だけが拡大したり縮小したりするイメージが得られるのである。ただし試作機の聴かせる声の質感はわずかに薄口で、もう少し厚みが欲しいと思わせる印象もあった。最終商品でそのへんが改善されることをぜひ望みたいと思う。
日本国内でのAVアンプの販売はいまひとつ低調のようだが、CX-A5000/MX-A5000はこの秋のAVシーンの大きな目玉であることは間違いない。ヤマハにはぜひ多くの方がこのすばらしい音を聴ける機会を数多くつくってほしいと思う。筆者自身もこの秋導入するAVアンプをパイオニアの「SC-LX87」にするか、このヤマハのペアにするか、しばらく悩む日々が続きそうだ。
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