――市販のリニアPCM音源(WAV、FLAC)には96kHz/24bitとか、192kHz/24bitと表記されています。これはどういう意味ですか?
麻倉氏: リニアPCMでは、サンプリング周波数とビット深度で情報量を示します。サンプリング周波数は、ある間隔で音を刻んでみたときの細かさを示していて、例えばCDの44.1kHzは、1秒間に4万4100回の細かさ。再生できる音の周波数に換算すると半分の22.1kHzまでとなります。人の可聴帯域が20Hzから2万Hzといわれているため、CDはそれを忠実に再生しようとしたのです。
一方の16bitは、再生できる大きな音から小さな音までのレンジ(範囲)が96dBあるということを示しています。これは5万階調くらいの表現力。現在のハイレゾ音源は24bitが主流ですが、するとCDより8bit増えて144dBという広い範囲が再生できます。より小さな音からより大きな音まで再生できるようになり、これまではノイズに隠されていたような微小な音も出てきます。
コンサート会場を想像してみてください。楽器の音や人の声といった直接音のほかに、ホールの響きのような間接音、観客のざわめきといった、ごくごく小さな音もあります。それらはレベルが小さいのでノイズに埋もれやすく、CDのようにダイナミックレンジが狭いとつぶれてしまいます。しかしハイレゾ音源では、そうした小さな音もちゃんと小さな音として感じられ、コンサート会場に行ったときの“生の雰囲気”に近づけるのです。
――では、人の可聴域を超えた音を出すことに意味はあるのでしょうか。
麻倉氏: よく聞かれることです。確かに1970年代の研究開発により、人の耳で聞き取れる音の範囲は20Hzから2万Hzといわれています。しかし実際問題として、2万Hzを超える超高周波領域も人は感じ取っています。意味のある情報として受け取ることはなくても、肌感覚として音の存在は判別できていて、それが脳に作用して“良い音”と受け取るのではないでしょうか。
以前、この連載でも芸能山城組の山城先生(作曲家・山城祥二氏)が提唱する「ハイパーソニック」を取り上げたことがあります。山城先生は1970年代にたくさんのLPレコードを制作して、不思議と「音が良い」と評判でした。当時、理屈はよく分かっていませんでしたが、山城先生は経験則から5万Hz以上の音があると良い印象になることを知っていて、レコードにも意図的に入れていたのです。
ところがCDの時代に入り、同じ音源をデジタル化したものを出そうとしたところ、音が良いとは感じられませんでした。調べてみると、2万Hzを上限に切られていて、せっかく入れた音が欠落していたのです。これは人が2万Hz以上の音を感じ取れることの実例といえるのではないでしょうか。最近、山城先生の当時の音源がハイレゾで再販されていますから、興味のある人は聞いてみてください。
麻倉氏: また放送大学の仁科先生は、超高周波が伴うと可聴域の音もよりクリアに聞こえる効果があるとして検証を進めています。イギリスのメリディアンが最近発表した「時間軸解像度とハイレゾの関係」も興味深いですね。このような研究が進めば、ハイレゾ音源が人に与える効果も遠からず解明できるでしょう。
――次回は実際にハイレゾ音源を聞くためのシステムと楽曲について聞いていきたいと思います。
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