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大切なのは“イタリアニティ”――デロンギのモノ作り哲学滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(4/5 ページ)

» 2015年11月11日 21時52分 公開
[滝田勝紀ITmedia]

 当然かもしれないが、家電はデザインと機能性の両立が大事だ。デロンギ製品はキャラクターがはっきりとしているが、各国のニーズに対しては常にオープンな姿勢で望むという。

 「コアを変えることなく、機能やデザインはその国に合わせた柔軟性を持ち続けること。この両立こそがデロンギの大切な要素です。日本に展開する場合、一番多くリクエストがあるのがサイズですね。例えばケトルは、他国では1.7リットル容量の製品を販売していますが、それは日本の住環境にはやや大きすぎます。このため、0.7リットルや1リットルなどに小型化しました。またエスプレッソマシーンは、コーヒーのドリップ機能を追加しました。ドリップコーヒーのリクエストがあったのは、実は世界中で日本だけです。コーヒーメーカーなども、他国では10カップのものが欲しいという要望が多い一方、日本からは5カップのリクエストが来ました。さらに、他国は黒だけ用意すれば良かったのですが、日本からは黒以外に白も欲しいと言われました。オイルヒーターは白と黒の2色が世界的に展開されていますが、パネル部分の色違いが欲しいといったのはやっぱり日本だけです。さらにイチから日本だけに向けて開発したMDHのような製品もあります」

販売する国によって同じケトルでも微妙に機能や形が違う

 日本向けの製品作りは、良い意味で非常にチャレンジングであり、デロンギ全体の製品開発にとっても重要だとパオラ氏。とはいえ、すべての注文を受け入れているわけではないという。

 「ニーズは理解しなければなりませんが、注文を受けているわけではありません。なぜならデロンギらしさは何よりも優先されなければいけませんから。すべての注文を聞いているとそれがブレてしまいますし、われわれの仕事は要望に対し、なにをどう答えるかを決めること。頼まれたものをそのまま答えるとは限りません。あくまでもデロンギとしてのやり方は貫きます。例えそれが日本であったとしても、細かなリクエストにそのまま答えるとは限りません」

 また、デロンギは現在グループ企業であり、デロンギ以外に、ドイツのブラウンやイギリスの調理家電ブランドも持っている。この3ブランドのシナジー効果もデロンギの強みだ。

 「デロンギの成長戦略は、常にポートフォリオを広げることを視野に入れています。例えばデロンギがこれまであまり強くなかった国に対しても、イギリスの調理家電ブランドがその国でアドバンテージがあるとしたら、その戦略性や強みをグループとしてデロンギに取り込んでいきます。ブラウンもまったく同じで、これは3つのブランドがイタリア人とイギリス人とドイツ人ぐらいパーソナリティが違うからこそ功を奏しているんだと思います。デロンギというブランドに比べ、ブラウンは広い製品アピールが可能で、イギリスの調理家電ブランドはもう少しプロフェッショナル寄り。料理でもエキスパートに近い場所でアピールできます。つまり、それぞれターゲットが全然違うからこそ、お互いの製品作りも強化できるのです」

イタリアのデロンギのブランド価値は、ルーツや歴史までイタリアニティにあり。他とは違う“ディスティンクティブ=特色がある”こと、さらに生活に特別な何かを与えることに比重を置いている
ドイツのブラウンは小物調理家電が中心で、シンプリシティやタイムレスをデザイン思想の最優先事項に。デザインは機能面をフォローして自然にできあがるものとしている
マルチに使えるクッキングシェフなど、業務用の調理家電などでも強さを発揮するイギリスの調理家電ブランド。ブランド価値の比重を堅実性があり、壊れないことに置いている

 クオリティとイノベーション、そしてデザインは、3つのブランドがそれぞれのキャラクターの違いに応じて比重を変えることも大切だとパオラ氏。「イギリスの調理家電ブランドは価値の比重をデュラビリティ、つまり堅実で壊れないことに置いています。デロンギやブラウンももちろん壊れませんが、それをブランドバリューに据えているところが、そのブランドのキャラクターなのです。同じようにデロンギはデザインを“ディスティンクティブ=特色のある”と掲げていますが、一方でブラウンが最優先としているのはシンプリシティ。それはディーター・ラムスの『グッド デザインの10の原則』や『レス・バット・ベター』という言葉などが背景にあるからです。デザインは機能面を自然とフォローして、自然とできあがるもの、不要なものをつける必要がないというのが彼らの考え方に基づいているのです。このキャラクターの違う3つのブランドが、それぞれ切磋琢磨することがデロンギのグループが持つ強みなのです」

 各ブランドが各ヘリテイジ、由来に誇りを持ち、それらを緻密に強めて行くこと。デロンギに携わる者はイタリアニティや歴史に誇りを持ち、イギリスの調理家電ブランドやブラウンはグループ内ではもちろんライバル関係にあるが、そのブランドごとの個性が重要なのだ。3つのブランドがそれぞれニュートラルな状態にあっては、せっかくの良さを打ち消し合ってしまうので、デロンギはデロンギらしさを追求する。調理家電ブランドはイギリスらしさ、ブラウンはドイツらしさに誇りを持つ。ただ、インフラストラクチャーに関しては、共有できるものは共有し、コストを少しでも安く、クオリティーの高い製品作りを可能にする。そんな関係性がグループ内で健全に構築されていることもデロンギの強さなのだろう。

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