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デジタルフィルターの仕組みと効果――ESS直系、レゾネッセンス・ラボのポケットDAC「HERUS+」を試す(1/5 ページ)

» 2016年01月08日 15時04分 公開
[山本敦ITmedia]

 イヤフォンジャックからのハイレゾ出力に対応していないiPhoneでも、実はLightning端子にアップル純正のLightning-USBカメラアダプターを接続して、USB接続でハイレゾ対応のDACにつなげばハイレゾ再生が楽しめることをご存じだろうか。

 でも、これはアップルのiPhoneが公式に提供している機能ではないので、どんなUSB-DAC内蔵ヘッドフォンアンプでもこの方法でハイレゾが再生できるわけではない。とくにiPhoneと一緒に、アウトドアに持ち出してハイレゾ再生が楽しめる低消費電力タイプのポータブルUSB-DACで、この方法によるハイレゾ再生ができる製品は未だ数少ないのが実情だ。

 そんな中、カナダのResonessence Lab(レゾネッセンス・ラボ)は、いち早くiPhoneによるハイレゾ再生に着目、2013年発売のUSB-DAC内蔵ヘッドフォンアンプ「HERUS」(ヒールス)でこれを実現したことで、オーディオファンの間でにわかに注目を浴びたブランドだ。

Resonessence Lab(レゾネッセンス・ラボ)のロゴ(写真はINVICTA V2)

 HERUSは、リニアPCM系だけでなくDSDを含むハイレゾ再生もサポート。iPhoneに「HF Player」など、ハイレゾ対応のプレイヤーアプリを入れてハイレゾ音源を再生すれば、iPhoneがハイレゾ対応のポータブルオーディオプレイヤーに早変わりする。当時HERUSは“便利”なだけでなく、オーディオファンをも唸らせる音質を実現した製品としても脚光を浴びた。そのHERUSをベースに、音質と機能をさらにブラッシュアップした上位モデルの「HERUS+」(ヒールス・プラス)が2015年の年末に登場した。

Resonessence Labのポケットサイズを実現したハイレゾ対応USB-DAC内蔵ポータブルヘッドフォンアンプ「HERUS+」

ESS TechnologyのDNAを継ぐブランド“レゾネッセンス・ラボ”

 レゾネッセンス・ラボは、カナダ西部のブリティッシュコロンビア州ケロウナに本拠を構える、BCIC Designsのハイエンド・オーディオブランドだ。そのルーツはいま高性能オーディオDACのメーカーとして名を馳せる米ESS Technology(以下:ESS)と深く結び付いており、ESSで長年オペレーション・ディレクターとして活躍してきたマーク・マリンソン氏が現在ブランドの代表を務めている。マリンソン氏を中心に、ESSにおいてDAC、ならびにADCの設計に深く関与するトップエンジニアが中核メンバーとしてレゾネッセンス・ラボの立ち上げに参加し、デジタルオーディオの先端を行くESSの技術力と、既成のデジタルオーディオの概念にとらわれない独創性豊かなアイデアをそのオーディオ製品に惜しみなく注ぎ込んでいる。

 ブランドのポリシーは音質や操作性を磨き抜いて、いつまでも長く楽しめる発展性・拡張性も備えた“ドリームマシン”を多くのユーザーに届けることである。日本に最も早く紹介された製品は据え置き型のハイレゾ対応DAC内蔵ヘッドフォンアンプ「INVICTA」である。ラインアウトにはESSのSaber(セイバー)シリーズから「ES9018」を、ヘッドフォン側の出力にも「ES9016」と、トップクラスに位置付けられる2つのDACチップをぜいたくに搭載した製品として脚光を浴びた。続いてコンパクトサイズなハイコストパフォーマンスモデルのDAC内蔵ヘッドフォンアンプ「CONCERO」、そして「HERUS」の誕生へとラインアップを拡大していった。現在はINVICTAをベースにした強化モデルの「INVICTA V2」と、ラインアウト専用の「INVICTA MIRUS」に別れ、CONCEROはオリジナルモデルのほかに、ヘッドフォン出力を追加した「CONCERO HP」と、DACチップを変えてハイレゾ再生まわりを強化した「CONCERO HD」の3機種で構成する。これに「HERUS」と新製品の「HERUS+」が加わり、レゾネッセンス・ラボとして合計7モデルのDAC製品をそろえている。

奥の右側が「INVICTA V2」。左側は上が「CONCERO HD」、下が「CONCERO HP」。手前は「HERUS+」

 レゾネッセンス・ラボの製品は、いずれも本拠地であるカナダのケロウナで厳密な品質管理体制のもと生産されている。それだけではなく、商品の梱包資材も地元ケロウナで調達するという地元密着型。こうしたこだわりは、製品の完成度を高めるのが目的だ。

DAコンバーターにおける「デジタルフィルター」の役割

 SabreシリーズをはじめESSのDACチップの開発に深く関わり、特性を熟知したエンジニアたちが立ち上げたブランドならではの、ユニークな“デジタルフィルターの切り替え機能”が「HERUS+」をはじめとする基幹モデルに採用されている。

 デジタルフィルターとは、オーディオ信号を連続するアナログ波形からデジタルデータに標本化する際、またデジタルデータをアナログ波形に戻す際に、数学的な処理を加えてエイリアスノイズやアーティファクトなどと呼ばれる変換誤差によるノイズを取り除きながら、元のソースに忠実な音楽信号成分を取り出すための技術である。CD発表当初は抵抗やコンデンサーなど電子部品により構成されるアナログフィルターをオーディオ機器に搭載していたが、量産のコスト的な負担が大きいことから、現代のデジタルオーディオシステムではデジタルフィルターの採用が広がってきた背景がある。

 一般的にオーディオ信号をデジタルデータに変える際、実際の周波数よりもサンプリング周波数を数倍に高めてから必要な音楽信号の成分を抽出するオーバーサンプリングの手法が採られることが多く、オーバーサンプリングを行った後にエイリアスノイズを除去する段階でデジタルフィルターが活躍する。レゾネッセンス・ラボの製品はこのデジタルフィルターを音の好みに合わせて切り替えられるユニークな機能が搭載されている。新製品の「HERUS+」に搭載された3種類のデジタルフィルターを例に挙げながら、それぞれの特性について違いを見ていこう。

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