それでは続いて、レゾネッセンス・ラボの最新モデルとして発売された「HERUS+」に搭載されている3つのデジタルフィルターを実際に聴き比べてみたい。
新しい「HERUS+」は、オリジナルの「HERUS」と同じく、モバイル機器向けの低消費電力性能を特徴とするESSのSabre DACチップ「ES9010-K2M」を採用している。基本設計のコンセプトも変わらず、iPhoneにLightning-USBカメラコネクションキットを介してつなぎ、ハイレゾ再生が楽しめるUSB-DAC内蔵ポタアンとしての使い勝手の良さもそのまま継承した。オリジナルの「HERUS」から大きく変わった点はデジタルフィルターの切り替え機能と、新たに「低消費電力モード」が追加されたことだ。
「低消費電力モード」を選択すると、駆動時の消費電力が約25%カットできる。「HERUS+」への給電はすべてUSB経由となるので、接続するノートPCやスマートフォンのバッテリー消費を抑えながら音楽を楽しめる効果がある。本体トップのブランドロゴが3種類のデジタルフィルターと超低消費電力モードのオン/オフを切り替えるスイッチになっていて、クリックするとデジタルフィルターの切り替え、数秒間押し込むと、選択中のデジタルフィルターの特性を保持したまま低消費電力モードに入る。
DACチップの性能は352.8kHz/24bitまでのDXDを含むリニアPCM系音源、および5.6MHz、2.8MHzのDSD音源をデコードして、それぞれにネイティブ再生が行える。ソース機器との接続にはUSB-B端子を採用。ヘッドフォン側を6.3mmの標準ジャックとしたのは、「最も接触面積が広く、良い音が得られる方式である」と、レゾネッセンス・ラボのエンジニアたちが判断したからだ。
本体はコンパクトながら、600Ωのハイインピーダンス仕様のヘッドフォンも豪快に鳴らせるハイパワーを実現している。高精度な32bitデジタルボリュームを搭載し、USB接続したPCやモバイル機器のプレイヤーアプリから内蔵ボリュームの連動制御が行える。初代「HERUS」よりもボリュームのアップダウン操作がスライダの動きに近く、違和感のないものに仕上がっている。
本体のエンクロージャーにはアルミのソリッドブロックから削り出した贅沢な素材を使っている。質量は64g。男性の手のひらに収まるサイズ感とした。
それでは「HERUS+」のサウンドを注意深くリスニングしていこう。まずは初代の「HERUS」と、新しい「HERUS+」を用意して、それぞれの音質の違いからチェックしてみた。再生環境は、「Audirvana Plus」を導入した「MacBook Pro」と独byerdynamicのヘッドフォン「T1 2nd Generation」を用意した。ヘッドフォンはまさに600Ωのハイインピーダンスモデルだが、「HERUS+」はこれを余裕すら感じさせるハイパワーで鳴らし切る。しかも中高域のディティールが鮮明に表れ、後に検証結果をお伝えする3つのデジタルフィルターの違いについても、筆者が所有するヘッドフォンの中でも一番明快に聴き分けることができたので、本機をリファレンスとした。
なお「HERUS+」をMacで使用する際にはドライバーは不要だが、Windows PCの場合は同社サイトで公開されている専用ドライバーが必要になる。そして初めて「HERUS+」をPCに接続する場合は、音楽プレイヤーソフトのボリュームが最大値に設定される場合があるので、最初に音を出す前に音量を確認してから再生ボタンを押すよう心がけたい。2回目以降は前回再生時の音量設定が保持されているので、いきなり爆音が出る心配はなかったが、「HERUS+」を挿すPCのUSBポートを変えるとまたボリュームがMAXになってしまうことがあったので、この点にもまた気を配る必要がありそうだ。
初代「HERUS」に搭載されているデジタルフィルターは「HERUS+」の「Sabre Fast Roll-Off」と同じものなので、最初に条件をそろえてから2つの製品の聴き比べをスタートした。どちらの製品もコンパクトな筐体(きょうたい)から想像もできないほど力強いサウンドを鳴らすが、新しい「HERUS+」はそのあふれるエネルギーを初代機よりも上手にコントロールできるヘッドフォンアンプとして、一段と飛躍を遂げたように感じた。中高域のS/Nが上がり、音楽の細密な表情が鮮明に見えてくる。とくに低域はディティールの音像が立体感を増して、初代の「HERUS」と聴き比べると、わずかに感じられる曇りがきれいに取り除かれて一段とスピードアップを果たした印象だ。
オーケストラでは広々とした見晴らしの良い音場を再現する。とくに艶っぽい金管楽器の伸びやかさと、弦楽器が奏でる和音のハーモニーの柔らかさに磨きがかかった。ボーカル系の楽曲は「HERUS+」の方が歌い手との距離感がさらに近接するような感覚が得られ、声の鮮鋭度も際立っている。もっとも、楽曲によっては深く暖かみのある初代「HERUS」の声質がより好ましく感じられる場合もあった。ロックは厚みのあるリズムの躍動感はそのままに、「HERUS+」では音の粒立ちがキリッと引き立つ。ドラムスのハイハットやシンバルの高域はとても緻密なグラデーションを描きながら空気に溶け込む。ジャズピアノもダイナミックレンジの再現幅が広がり、アタックにも鋭さが増すようだ。
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