続いて「HERUS+」単体で3種類のフィルターの違いを比較してみる。本体トップのロゴがボタンになっていて、最初に電源を入れると「Sabre Fast Roll-Offフィルター」が選択された状態で立ち上がり、LEDは青色に灯る。ボタンをクリックするとLEDの色がマゼンタになって「アポダイジングフィルター」が選択され、さらにもう一度クリックするとLEDの色はマゼンタのまま「Minimum Phase IIRフィルター」にすぐさま切り替わる。なおボタンを2〜3秒ほど押し込むと、LEDが消灯して、それぞれのフィルター設定のまま「低消費電力モード」に入る。以降のフィルターの切り替え操作は通常モードと同じで、クリックするとLEDが一瞬点灯して、その色で選択しているフィルターが判別できるようになっている。
ノラ・ジョーンズの「Come away with me」から『The Nearness of You』では、ボーカルの声の質感に違いが表れた。「Sabre Fast Roll-Offフィルター」では透明感のあるクールな声質が特徴だ。バックのアコースティックピアノはやや硬めな質感を備え、切れ味のよいシャープな音を聴かせる。「アポダイジングフィルター」に切り替えると、声のディティールがより豊かな表情を見せはじめる。ボーカルとピアノの距離感、音像の定位感がますます明確になった。奥行きに一段と立体感が増す印象だ。「Minimum Phase IIRフィルター」ではピアノの低域の余韻が深々と響き、暖かみあふれる音に包まれる。ボーカルは距離感がぐんと縮まり、口元の表情が太めの輪郭で描かれるようになる。ロングトーンのシルキーな質感がなんとも心地良い。
続いてヘルベルト・フォン・カラヤンの指揮によるベルリン・フィル「ドヴォルザーク:交響曲第9番『新世界より』」から『第4楽章:フィナーレ(アレグロ・コン・フォーコ)』を試聴した。
「Sabre Fast Roll-Offフィルター」では金管楽器の高域の抜け味が鋭く、それでいて耳当たりがキツくなり過ぎることはなく、余韻が透明な空気の中にすうっときれいに溶けていく。弦楽器のハーモニーはレイヤーのほぐれがよく、1音ずつ輪郭が引き締まっている。木管楽器のソロは、小音量の旋律ながらも繊細な表情が明快に浮かび上がってくるようだ。聴感上の各帯域のバランスはフラット。オーケストラを構成する全ての楽器の音色にしっかりとフォーカスが当たっているような被写界深度の深い緻密なハイレゾらしい音場感が描き出される。
「アポダイジングフィルター」に切り替えると定位感がアップして、演奏にいっそうの立体感が加わった。高域は伸びやかで明るく、力強く張り出してくる。コントラバスの低音はしなやかに躍動する。特に弦楽器は“Fast Roll-Off”のデジタルフィルターと比べて一体感のある肉厚なハーモニーを味わうことができた。木管楽器のソロも旋律がより明瞭に定位するだけでなく、こってりとした濃厚な余韻を響かせるようになった。
「Minimum Phase IIRフィルター」では、低域の響きがさらに分厚くなるが、全体にだぶつくことのない、一体感のある引き締まったサウンドだ。フォルテッシモで展開するパートは壮大なスケール感を余裕たっぷりに再現する。高域にもつやっぽさが加わり、金管楽器や弦楽器のロングトーンの滑らかな質感がますます冴え渡る。どっしりと深く、柔らかく響く打楽器のリズムもエネルギー感を前面に押し出してくるようなフレッシュさが魅力。木管楽器のソロでは温かみのある楽器の音と、冷たく静寂な空気感とのコントラスト感が楽しめた。
低消費電力モードによる音の変化についてもチェックした。ボタンを数秒押し込むと、選んだフィルターの特性を保ったままランプが消灯してモードがスイッチされたことを知らせてくれる。各フィルターのキャラクターが変わることはないが、低消費電力モードの方が低域のバランスがややフラットになる傾向。音の力強さが大きく変わることもないが、音像のフォーカス感がわずかに浅くなるように感じられた。PCに電源アダプターを接続して給電しながら音楽が聴ける環境であれば、わざわざ低消費電力モードを使う必要はないと思うが、とくにスマホやタブレットによるモバイルリスニング時には、モバイル機器のバッテリーの消費が抑えられので、頼りになる機能といえるだろう。
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