ケンコー・トキナーの「AT-X 14-20 F2 PRO DX」は、APS-Cサイズセンサーに対応した新しい広角ズームだ。仕様をチェックしてまず目に止まるのは、14〜20mmという従来にない焦点距離を採用していること。35mm換算の焦点距離は、21〜30mm相当(ニコン用の場合)。ズーム倍率でいうと、わずか約1.4倍しかない。
この倍率の低さに驚いた人も、レンズの開放F値を見れば「ああ、なるほど」と納得できるだろう。開放値はズーム全域でF2に対応。つまり、ズーム倍率を低く抑えることで、ズームレンズでありながら単焦点クラスの明るさを実現したのだ。同社によると、「ちょい足しできる単焦点レンズ」というコンセプトに沿って、単焦点レンズに匹敵する光学性能を目指したという。さっそくその写りを見ていこう。
1枚目は、展望台からの眺めを14mm側の開放値で捉えたもの。背景の町並みはふんわりとぼけて、にじんだ水彩画のような表現となった。もちろん肉眼ではこんな風には見えない。大口径ワイドレンズならではの写りといっていい。
次も同じく14mm側の開放値で撮影。木漏れ日の部分はきれいに整った玉ボケとなり、主役である手前の花を際立たせることができた。合焦部分のシャープネスは高く、葉や花びらのディテールまでをリアルに再現できている。
次は、20mm側までズームアップし、最短距離となる28センチ付近で撮影。14mm側に比べると開放値のシャープネスは控えめだが、それでも細部までしっかり解像している。ナチュラルなボケも悪くない。
全域F2の明るさは、ボケ表現だけでなく、光量が乏しいシーンで手ブレや被写体ブレを低減できる利点もある。次の2枚は、水族館の水槽をスナップしたもの。従来は単焦点レンズが欠かせなかった薄暗い場所だが、本レンズがあれば単焦点の出番は減るだろう。
レンズの外形寸法は最大径89×全長106mm。フィルター径は82mm。質量は約735グラム。APS-Cサイズ用の広角ズームとしてはやや大きくて重めだが、持ち運びが苦になるほどではない。3〜4本分の単焦点レンズが1本にまとまっていると考えれば小型軽量ともいえる。今回使ったボディー「D500」装着時のバランスもいい。
鏡胴のデザインは、最近の同社製品に共通したもの。外装はレザートーン塗装を加えたツヤ消しの黒で、樹脂主体ながらしっかりとした剛性と高品位な質感を備えている。マウント部は金属製。マウントの外周にはゴムシーリングを施して防塵防滴に配慮している。
同社独自の「ワンタッチフォーカスクラッチ」も既存モデルから継承。フォーカスリングのスライドによってAFからMFへと素早く移行できる仕掛けだ。
AFは「SD-M」と呼ばれるDCモーターで駆動し、高精度磁気センサー「GMRセンサー」によって制御される。AFスピードはゆっくりめ。動きの速い被写体を捉えるのはあまり得意ではない。
今回の撮影では、画面四隅までのキレのある写りと、開放値F2が生み出す滑らかなボケを味わうことができた。ズーム倍率の低さについては、最初のうちは戸惑いもあったが、1日使えばすぐに慣れた。通常のズームレンズ感覚で使おうとすると不自由な面もあるが、製品コンセプトどおり、単焦点レンズだと捉えれば少しズームできることがむしろありがたく感じる。
カメラメーカーの純正品にはない個性派レンズであり、他人とは違った写真を目指したい人には特にお勧めできる。
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