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自家焙煎コーヒーの楽しみ方――「The Roast」を作ったキーパーソンたちのこだわり滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(2/3 ページ)

» 2017年05月26日 14時40分 公開
[滝田勝紀ITmedia]

焙煎豆のエイジングも試してほしい

福岡「豆香洞コーヒー」のオーナー焙煎士、後藤直紀氏

 “生豆に最適な焙煎プロファイル”を作成するのは、2013年に焙煎世界大会で優勝した福岡「豆香洞(とうかどう)コーヒー」のオーナー焙煎士、後藤直紀氏だ。The Roastでは1種類の豆に対し、その特徴を生かした焙煎度の異なる2〜3種類の焙煎プロファイルを作成しているため、ユーザーは年間で最大100パターン近い焙煎を試し、その味や香りの違いを楽しめる。

 そもそも焙煎とは、コーヒー豆に火をいれて水分を抜き、香ばしい風味を出すこと。「生のコーヒー豆は、とても飲めるようなものでありません。熱を加えることで初めてコーヒーならではの香り、酸味、苦みが出てきます。しかし、同じ熱の与え方でも、タイミングや温度、風量によっても変わります。われわれはこの行為を“味をデザインしていく”といいますが、それはたまたまできるものではありません」(後藤氏)

福岡「豆香洞コーヒー」

 後藤氏が焙煎する時に大事にしているのは、コーヒー豆が持つ素材の味と“焙煎の味”を掛け合わせ、お客さんが美味しいと思ってくれる味を探すことだという。生豆の状態を見定めて、火かげんや時間などをコントロールして、味作りをしていく。コーヒー豆は世界中で生産され、しかも同じ原産国でも地域や、生産年によってもムラがあるという。それを見極めながら、美味しいコーヒーが淹れられるように焼き方を調整していく。

焙煎風景

「コーヒーの味にベストはないと思います。それはお客さんがそう思ってくれたらいいこと。私たちはいろいろな味を提案して、お客さんに問い続ける。嗜好品ってそういうものではないでしょうか」

 では、The Roastではどのような美味しさを目指しているのだろうか。またThe Roastのプロファイル作りで気をつけたことはあるのだろうか。

「例えば外で飲むコーヒーには流行やトレンドがあり、そのお店の個性を楽しむ部分があります。でも、自宅で飲むコーヒーは日常なので、一番大切なのは“特別すぎない”こと。毎朝、毎日、飽きずに美味しく飲めることが重要だと考えます」(後藤氏)。プロファイルについては、「温度などの数字はすごく大事にしています。私は今までに2万回ぐらい焙煎を繰り返してきましたが、それをすべて記録しています。数字によるデジタルな部分と、色や香り、味などの感覚によるアナログの経験が結びつき、色々と見えてくることがあります。両方を大事にしながらプロファイルを作り上げています」と話している。

 さらに後藤氏にTheRoastの楽しみ方を聞いたところ、「焙煎した豆の味の変化を楽しんでほしい」とのこと。「うちのお店では、焙煎した後、1日経ってから豆を販売しています。それはまだ豆の中にガスが溜まっていておいしく淹れにくいから。ただし、この焙煎仕立ての味は自家焙煎でないと飲めません。そして、焙煎豆は生き物のように味が刻々と変わっていきます。これをエイジングと呼びます。焙煎直後のフレッシュな状態から、1日1日変化していく味をぜひ楽しんでほしいですね」

 おいしい状態が見つかったら、冷蔵庫に入れてその状態を維持することもできる。また、豆によっては2日目がおいしかったり、7日過ぎた頃から良くなったりとさまざまなケースがあるという。この変化そのものを楽しめることが、The Roastの魅力なのだ。

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