パナソニックが「脱臭ハンガー」を発表したときは少し驚いた。パナソニックというメーカーは、「史上初」「業界初」といった製品より、既にあるジャンルの家電をユーザー目線でブラッシュアップしていくことが得意だ。そのパナソニックが、今まで存在しなかったハンガー型の脱臭機をなぜ開発したのか。そんな率直な疑問をパナソニックの製品開発担当者、中迫亜昇氏に投げかけてみたところ、驚きのこだわりエピソードをいくつも聞くことができた。
――脱臭ハンガーを開発したきっかけを教えてください
中迫氏:われわれランドリー・クリーナー事業部では、数年前から「LV(Laundry Vacuum)Wonders」という取り組みをしています。これは『パナソニックは変わったな』と感じてもらえるようなワンダー(驚き)を与える提案ができないか、という理念のもと、新しいものづくりにチャレンジしたい社員たちが手を上げる試みです。何人かでチームを作り、3〜4カ月で新規商品を考えます。今回、われわれも7〜8人のチームで参加し、この脱臭ハンガーを提案しました。
――社員なら誰でも参加できるのですか?
中迫氏:ランドリー・クリーナー事業部の所属であれば誰でも参加できます。例えば、普段は現場の組み立てをしている社員でも企画段階から携わり、製品を作ってみたいという思いをアウトプットできます。今までの定常的な物作りと違い、自分で手をあげて作りますから、熱い気持ちが込まれたものが多いですね。自らさまざまなところに勉強やリサーチに行き、企画をまとめ、最後に経営陣に対してプレゼン。商品化、事業化できるかが決まります。
――どうして脱臭ハンガーを作ろうと思ったのですか?
中迫氏:ランドリー・クリーナー事業部の主な商品は、洗濯機、掃除機、温水洗浄便座です。クリーンで快適な空間を提供することがわれわれのミッション。そこに並ぶような新たな家電を検討しました。
まず、クリーンで快適な空間を阻害するものは何だろう? というところから始め、それは汚れ、雑菌、悪臭だと結論付けました。そこからパナソニックの製品――自分たちの事業部以外のものも含め、汚れや悪臭にどのように対処しているかを調べ、まとめます。すると悪臭に着目したとき、空間の汚れや臭いに対処するものは多いのに、モノの表面に付着した、あるいは染みこんだ臭いに対応するアイテムが意外と少ないことに気づいたのです。
――しかし、ランドリー・クリーナー事業部が手がけている商品は、ほとんどモノの表面に対してアプローチするものばかりですよね
中迫氏:そうです。例えば洗濯機は衣類をきれいにしてくれますが、中にはスーツやジャケットなど、家庭で日常的に洗濯することができないものもあります。これを何とかできないか。
――なるほど。しかしスチームアイロンのような製品もあります。そうした既存製品の延長線上で解決しようと思うのが普通だと思いますが、ハンガーに着目したのはなぜですか?
中迫氏:ハンガーは、誰もが生活の中で普通に使っているからです。われわれは新しい家電を作ることを目指したわけではなく、単純にユーザーが困っていることを解決しようと考えていました。どこの家庭でも、帰宅したら上着をハンガーにかけますよね。しかし、新たに脱臭専用の家電を作ったとして、場所を取り、やることが増えてしまうと、きっと使われないと思ったのです。
――確かに帰宅すれば上着をハンガーかけますから、ついでに臭いがとれたらうれしいですね
中迫氏:これまでの調査の中で、『スーツなどの臭いに対し、どのようなケアしているか』を聞いたところ、『スプレー型の消臭剤を使う』『クリーニングに出す』という方が大半でした。スプレーは手軽ですけど、臭いをマスキングして、とれているかというと不安の声もあります。一方、クリーニングは当然キレイにはなりますが、お金もかかりますから毎日利用するわけにもいきません。それを家電で解決できないかと考えました。
――なるほど。しかもパナソニックには脱臭効果のある「ナノイーX」技術があります
中迫氏:そうですね。脱臭についてはさまざまな方法を模索したのですが、脱臭ハンガー開発時にたまたま『ナノイーX』の開発試作品ができたところだったので、せっかくなら社内の新しい技術を使ってみようと思いました。
――気になるのは、家電メーカーがハンガーを作ったという点です。おそらく初めてだと思うのですが、ノウハウはあったのですか?
中迫氏:そもそもハンガーについてそこまで深く考えたこともありませんでしたね。
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