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» 2018年02月19日 18時30分 公開

「SONY」を再び特別なブランドに “平井ソニー”の6年間の軌跡 (5/6)

[本田雅一,ITmedia]

「だから3年かかるって話していたのになぁ」

 「だから3年かかるって話していたのになぁ」と平井氏が話していたのは、最初の中期事業計画が終わり、次の中期事業計画を発表する頃のことだ(約3年前)。

 平井氏は記者の質問に対して、かなり素直に答える人だった。

 エレクトロニクス事業の立て直しに関しても、まずは商品力を高めることを目標としていた。しかし、商品力を高めるといっても、いきなり来年の製品がよくなりました、なんてことはない。また、事業環境にも左右される。例えばスマートフォン市場ではグローバルで大きく立ち遅れていたのだから、そこで頑張ってみても直接的な収益はすぐには上がらないし、市場の伸びが鈍化すれば赤字事業に転落する。

 本当に力が付くまで、それらの障害を乗り越えながら、商品力を同時に高め、購入してもらった顧客の満足度を上げていかねばならない。このため、社長に就任直後から平井氏は商品の質を高めるための投資、商品体験を向上させるための投資、あるいは商品開発をする上でのコスト配分などについて大きく見直しをかけると話していた。

 比較的単純なところで言うとカメラだ。デジタルカメラ市場の縮小は当時から始まっていたが、高級路線へと舵を切ると同時に「デザインを大きく変えないように」との指示を強く与えた。高級機路線、プレミアム路線に行くには、機能や画質だけでなく、長く愛用してもらうことによる中長期的な満足度向上が必要だと考えていたからだ。

「α7RIII」。ソニーは最近、最も意欲的にカメラを開発し続けるメーカーといわれる

 仕方なく買い替えるときも「まだ買い替えたくない。もっと使いたい」と思ってもらえるようにする。そのためにはデザインテイストの統一も重要だと主張したのだ。加えて「今回はパッケージコストの削減でここまで原価を下げました」といった報告に「無限にコストをかけろとは言わないが、欲しくてたまらない製品を入手したときの感動を損ねるようなコストダウンなら辞めなさい」と言ったというエピソードもある。現在のαシリーズやRXシリーズの商品力の源泉は、平井氏のこだわりから始まっていたのだ。

 「だから3年かかる〜」という冒頭のせりふは、すぐに商品力が高まったカメラ以外のところでの話。商品力を高めるには、半導体開発など根本的な部分に立ち返る必要がある製品もある。テレビなどが代表例だろうか。またオーディオ製品に関しても、取り組んで結果が出るまでには最低でも2年はかかるものだ。

 そうした改良が世の中の評判として伝わり、ブランドとしての価値が向上して収益が改善するには当然もっと時間がかかるわけだが、当時は「3年近く経過しているのに、平井がやってることは人材を切ることや、主要事業を切り離し、事業領域を狭めることぐらい。商品が分かっていないから、製品も変わらない」などと言われることもあり、オフレコモードのときにふと「(商品が変わるのに)3年はかかると最初から話をしているのに。来期の成績を見てほしい」と、普段からプレスとのコミュニケーションを密にとっているつもりが、そうではなかったことをグチっていた。

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