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コラム
» 2018年02月19日 18時30分 公開

「SONY」を再び特別なブランドに “平井ソニー”の6年間の軌跡 (6/6)

[本田雅一,ITmedia]
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対話する相手は若手だけではない

 さて、僕の視点から見た平井氏。

 最も印象的だったのは、社内の対話を重視していたことだ。もちろん、あれだけ大きな会社なのだから、社内の対話は必要だろう。SAPに代表されるような、若手エンジニア育成を目的にしたイノベーションプログラムや、若手エンジニアたちとの直接の交流などが、その経営者としての姿勢を表す事例として紹介されることが多い。

ソニーの新規事業送出プログラム「SAP」(Seed Acceleration Program)からはユニークな製品と若い管理職が生まれた。「wena wrist」の発案者、對島哲平氏はソニー新規事業創出部wena事業室の統括課長を務める

 しかし平井氏は、自身がトップに就任してからすぐに行った本部長クラスの会合も社内の風通しを良くする上で重要だったと話す。現場からの要望や新しいアイデアなどに直接触れている本部長クラスが、全く異なる事業領域の人間と定期的に交流することで、部署を跨いで仕事をすることが増えた。あるいは、他部署で開発中、検討中のアイデアや技術を社内で共有するようになり、部署を超えたコラボレーションも生まれ始めた。

 もちろん、初期にリストラ、人員整理を進めた時代には、利害関係にある人物から大きな批判にさらされていたのは承知しているが、一方で対話の姿勢を誰よりも見せていたことが「今までのソニーとは決定的に違う」という印象につながっていた。

 冒頭でも述べたように「俺はソニーのトップなのだ」という肩に力の入ったところがなく、大組織全体を力で支配しようとしなかったことが成功への近道だったということだろうか。それは同じような経営危機の中で社長交代。その後、すぐに組織を掌握して収益を改善したものの、収益を伸ばしていくフェーズで足踏みをしているパナソニックとの違いだ。

 ソニーは回復にこそ時間はかかったものの、収益を高めていくための組織作り、体制作り、社内の空気を整えるといったことに力を割いてきた。平井氏の場合、消費者目線でこだわるところは徹底的にこだわりつつ、自分が理解できない、評価できない領域は「これは僕では判断できないが、いち消費者の視点からするとこう思う」といった告白を社内向けにすることをためらわない。

 そうした無理をしない姿勢に加え、VAIOやテレビ事業への最初の1年のように、現場にやらせるだけやらせて、しかしきちんと数字は追いかけた上で、やっぱり無理なものは無理、改善すれば大丈夫な事業は改善をといった切り分けを、理由を明確にした上で行った。市況の変化にも敏感で、やるべきことには投資するが、市場が変化したらすぐに方針転換したモバイル事業など、ほんの数週間といった短期のレベルで異常値を検出すると踵(きびす)を返す俊敏性もあった。

 これも若手から中堅まで、幅広いレイヤーの社員との対話を重視してきたからに他ならない。大企業の経営者にありがちな「俺は間違ってない」「俺は経験を積んでこの位置にいる」「俺は……」といったところがなく、自分の持つ感覚、第三者的に自分自身を見つめたときにどう感じるのか。そうした部分に正直にあり続けた。

 もし自分がソニーという会社のトップに立ったなら、一体どう振る舞えるだろうか。虚勢を張らずに対話を中心とした組織運営を徹底できるだろうか。そして成功した後、組織の中での自由度が飛躍的に上がった中、職を辞して自分自身の時間を取り戻そうなんて考えられるだろうか。会社を立て直し、次の3年では絶対的な権力をふるえたであろう平井氏が、このタイミングでトップの座を次に譲るというのもまた、実に平井氏らしい。

5G時代に向けた新しいソニーへ

 新たな船頭を得たソニーは、過去の成功がもたらした呪縛から逃れ、どのように進んでいくのか。まだ反転攻勢の時機ではないかもしれないが、その機を伺うために吉田新社長はぴったりの人材だ。出井氏の時代からソニーの中枢にいながら、ネットワーク事業の立ち上げと収益化を果たし、平井氏とはタイプは異なるものの客観的に企業全体を見る。

社長兼CEOに昇格する吉田憲一郎氏(現副社長兼CFO)=2017年8月撮影

 吉田氏はしばらくの間、中期計画を練り上げることに集中したいという。どのような方向に進もうというのか、その本音が聞けるのはしばらく先のことになるだろう。しかし、収益性を取り戻し、攻勢をかけるべき今後は事業環境が大きく変化する時期でもある。

 2020年には始まる5Gネットワークの整備に数年かかるとするなら、“吉田ソニー”の2期目が終わる頃……経営者としての成績を評価される時期に、クルマなどの移動体も含め社会全体がネットワーク化される“5G時代”が本格化することになる。そこをゴールとして見定めたとき、どのような順番で反転攻勢をかけ、イノベーションを起こしていこうとするのか。これから数年のソニーからは目が離せない。

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