セブン&アイ・ホールディングスの電子マネー「nanaco」が好調だ。nanacoは今年4月23日にサービス開始したばかりの電子マネーであり、使える店舗は今のところ全国のセブン-イレブンのみ。しかし、サービス開始からわずか52日で、発行件数はカードとおサイフケータイを合わせて300万枚に達している(6月14日の記事参照)。
関東のSuica/PASMOや、関西のICOCA/PiTaPaといった“電車・バスに乗れる”交通系電子マネーとは違い、決済以外の部分に普及・利用促進の後押しがないことを鑑みれば、nanacoの普及ペースは予想以上に速いと言えるだろう。
nanacoはなぜ好調なのか。実際の利用シーンにおける“距離”に着目した前編に続き、後編では、nanacoのポイントプログラムにフォーカスして、その理由を考えてみたい。
nanacoには独自のポイントプログラムが用意されている。基本ルールは100円で1ポイント付与であり、公共料金の支払いや切手・印紙、金券類の購入を除けば、ほぼすべての商品購入でポイントが貯まる。また宅急便の利用などもポイント付与対象になる。
獲得したポイントは、ポイント加盟店のレジでnanaco電子マネーとしてチャージ可能だ。なお、この際に交換手数料として、交換額に対し1%の料金が別途かかる。
この100円で1ポイントという付与率は“ちりも積もれば”で魅力的ではあるが、格別の訴求力があるとは言いにくい。他のFeliCa決済を見ても、EdyではANAマイレージクラブと連携した「Edyマイル」、iDやQUICPayでは各クレジットカードの利用ポイントが獲得できる。特にEdyマイルは、コンビニエンスストアをはじめ多くの店舗で獲得可能であり、沖縄のように“飛行機に乗る”ニーズが大きく、ANAマイルの存在感の強い地域では普及・利用促進にとって“消費者に分かりやすい”推進剤になっている(4月19日の記事参照)。
nanacoのポイントプログラムが優れているのは、この通常ポイントのスキームではなく、ボーナスポイントの部分だ。これは特定商品の購入で付与されるもので、1回の購入で10〜50ポイント程度が獲得できるものが多い。さらにボーナスポイントは地域・期間ごとに対象商品が設定できるため、各地域の店舗や特定商品の販促キャンペーンで活用できる。
「(ポイント加盟店で)この期間は『この商品を積極的に売りたい』だとか、新商品が出て『お客様に試してもらいたい』といった時に、nanacoのボーナスポイントを活用しています。最近実施した例では、ボトルガム購入で100ボーナスポイントを付与したところ(すでに終了)、nanacoユーザーに好評でした。
これらは自前で店舗網を持ち、商品を管理している流通系電子マネーならではの強みです」(セブン&アイ・ホールディングス広報)
現在、東京地区で行われているボーナスポイントプレゼントキャンペーンを見てみると、パンや缶コーヒーといった飲料・食品で10ポイントキャンペーンを行っているほか、夏間近の蒸し暑い季節柄を反映して「ギャツビー フェイス&ボディシリーズ」で20ポイント、「殺虫剤 全品」で50ポイントのボーナスポイントを付与している。また、「カロリーメイトソイジョイ」で10ポイント、化粧品の「パラ ドゥ」で50ポイントと、特定商品にボーナスポイントが付いているのも印象的だ。
このようなボーナス的なポイントの活用法としては、Edyマイルの「ダブルマイルキャンペーン」などがあるが、こちらは加盟店単位で実施されるケースが大半だ。一方、nanacoのボーナスポイント設定はかなり細かく行われており、消費トレンドの取り込みや新たな需要の創出などに活用しようというスタンスがうかがえる。また期間ごとにボーナスポイント対象商品が変化することは、ユーザーの関心を高く維持する効果があるだろう。
もう1つ、nanacoのポイントプログラムで注目なのが、ユーザーにとって「ポイントが見えやすい」ことだ。
nanacoのポイント情報の確認は、決済時にもらうレシートと、nanacoモバイルアプリで確認できる。これは“当たり前”のように思えるが、他のFeliCa決済ではあまり実現されていなかった機能だ。
Edyのケースを見てみよう。Edyは「Edyマイル」が有名で、これが実質的なポイントプログラムのように思われているが、決済機能としての「Edy」とANAの「マイル」は別物だ。そのためEdy決済時のレシートやおサイフケータイ上のEdyアプリから、Edyマイルで獲得したマイル数や合計マイル数の情報を見ることはできない(6月11日の記事参照)。Edyは、Edyマイル以外に加盟店独自のポイントプログラムを“紐づけられる”柔軟性がメリットだが、反面、これが利用時におけるポイントプログラムの分かりにくさや見えにくさになっている。特におサイフケータイの場合、Edyアプリに紐付いた個々の加盟店ポイントアプリのポイント情報が、それぞれのポイントアプリや会員サイトを参照しなければ分からない仕様なので、「誰でも分かりやすい」とは言えないのが実情だ。
クレジット系のiDやQUICPayも同様で、これらはあくまで「決済機能」であり、ポイントは初期登録したクレジットカードのポイントプログラムになる。そのため利用時にポイント状況がすぐ分かるかというと、そうではない。例えば、iDを使ってポイントをどれだけ獲得したか、ボーナスポイントはあったのか、といった情報は、レシートやおサイフケータイ上のアプリからすぐに確認できない。こちらも“見えにくい”のである。
一方、nanacoは当初から電子マネーの「決済機能」と「ポイントプログラム」が一体化しているため、ポイント状況が一目瞭然だ。特に高く評価できるのが、おサイフケータイ向けのnanacoモバイルで、アプリを起動すればすぐに「nanaco残高」と「ポイント残高」が同時に表示される。これによりユーザーは常にポイントの存在を意識することになる。ポイントプログラムの存在を見えやすくし、それを意識してもらうことは、FeliCa決済の普及や利用促進に有効な手段だ。特に若年層や女性など、利用者層の幅を広げる上で重要である。決済機能とポイントを分かりやすく組み合わせて、きちんと“見せる”というnanacoの仕様は、他のFeliCa決済も見習うべき点だろう。
nanacoのこれまでを取材し、またユーザーとして利用して感じるのは、nanacoが「利用者の視点」と「加盟店の視点」でよく作り込まれていることだ。FeliCa決済やプリペイド型電子マネーの特性や課題をしっかりと研究し、リテラシーの高い一部のユーザーだけではなく、実際の店舗を訪れる“普通の消費者”に使いやすくなるように、サービス内容やオペレーションが構築されている。これは後発の強みと、これまでセブン&アイが蓄積してきた流通業者としてのノウハウが生かされているのだろう(6月18日の記事参照)。
むろん、nanacoにも課題はある。電子マネーを名乗る以上、加盟店を広げて、汎用的に使えるようにしなければならない。しかし、nanacoがセブン-イレブンやイトーヨーカ堂といったセブン&アイグループの「自社店舗網」以外に広がったときに、その優れたサービスクオリティやポイント機能を維持できるか。nanaco好調の原動力は、よく考えられた“一体感のある使いやすさ”にあるが、加盟店網が広がってもそれが維持できるかは、nanacoがセブン&アイグループの中で閉じるか、それともさらに拡大するかの試金石になりそうだ。
nanacoの急成長は、FeliCa決済の利用者層の“幅”を広げる上で、この分野の発展に大きく貢献している。nanacoの今後を、期待をもって見守りたい。
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