デジタルカメラをお持ちの皆さん。撮影した“たーっくさん”の写真はどうしていますか? ブログにアップする、SNSで紹介する、PCやネットのフォトアルバムに保存する、CD-ROMに焼いておく、デジタル写真集を作る……。楽しみ方がいろいろなのが、デジタルフォトライフのいいところ。
三流写真家の私に「アルバムを変える!」と確信させたのが、ベルギーのAgfaが発表した「AgfaPhoto AF5080W」というフォトフレーム。写真フィルムがデジタル化されて変わったことはたくさんあるが、その1つに「写した写真をどう見るか?」という閲覧スタイルの変化がある。
「フォトフレーム」とは、デジカメで撮った写真を液晶画面で見るデバイスだ。画面サイズによって、数千円〜3万円ぐらいまで価格もいろいろ。2008年1月に発表されたAF5080Wの最大のポイントは、従来のフォトフレームにはなかった“無線LANでネットに接続できること”にある。携帯やPCにBluetoothで接続する商品はあったが、本体だけでネット接続できる機能を内蔵したのはこれが初となる。AF5080Wのスペックは次の通りだ。
スペック | AF5080W |
---|---|
プロセッサ | Freescale i.MX31 |
OS | Linux |
メモリ | 内蔵128MB。メモリカードリーダーは5in1タイプで16GB以下のSDカードまで対応 |
ディスプレイ | 8インチ、800x600ピクセル(SVGA) |
再生できる静止画 | JPEG, GIF, PNG, WMF |
再生できる音声ファイル | MP3, WMA(スピーカーを内蔵) |
再生できる動画ファイル | H.264 AVI, MJPEG, MPEG-4 |
接続方式 | 無線LAN, USB |
その他機能 | スライドショー、時計、カレンダー、アラーム、リモコン |
ハードウェア的にはFreescaleのi.MXマルチメディアプロセッサが気になるが、“うふふ”的ポイントはネット接続(無線LAN)である。さて、それで何が変わるのだろうか?
フォトフレームがネット接続することで可能になることとは――まず、FlickrやPicasaといった、ネット上のアルバムサービスPCなしで接続できるのは大きなメリットだ。遠く離れた人からの写真も、ダウンロードして手元で見られる。
ここに、単身赴任のパパがいるとしよう。深夜、暗くて寒い部屋に帰ると、卓上のフォトフレームが光を放ち、子どもの写真がスライドモードでめくられている。自宅を守る奧さんが新しい写真をアップしたのだ。「おぉ、かけっこ一等賞だったんだな!」。部屋にほっと温かみが差してくる。ちなみに、つけっ放しでも電気代は1日数円程度。
海外赴任者も出稼ぎ者も、子どもの成長を卓上でチェックできるのである。インド洋での給油を再開した自衛隊員にもぴったり(洋上でネット接続できるのなら)。長期入院中の患者さんや、かわいい孫と離れて暮らすお年寄りにも喜ばれること請け合いだ。
商用フォトの配信サービスといったビジネスも可能になる。例えば、女優にしてカメラウーマン、宮崎あおいさんが毎月写真を投稿する「あおいのフォトログ」(オリンパス提供)。彼女は毎月4〜5枚の投稿をしているが、大河ドラマが始まっても投稿が途切れないのは、カメラ好きゆえだろう。あおいさんのフォトをフォトフレームで自動受信すれば、カレンダーの背景写真が毎週変わる。もちろんあおいさん自身の写真を受信しても、ファンはうれしい。
思えば写真のデジタル化は人類皆写真家の時代を作り、“3つの解放”をした。それは「アルバムの整理」「撮影枚数の制限」そして「秘め事」である。
フィルム時代の写真の、何が面倒だったか。撮影する。写真屋に現像に出す。ネガとプリントを持ち帰る。ここまではいいとしても、アルバムのページの間にどかっと写真とネガをはさんでおしまい。アルバムは置き場所も取るし、ホコリまみれにもなる。写真整理は嫌なものだった。
デジタル時代になり、人類活動記録係や地球観測係が世界中に出現した。非常に低コストで、枚数は記録媒体が許す限り無制限。おかげで、人類の総撮影枚数は星の数の数百倍にも達した(のではないか)。同時に撮った写真の整理も楽になった。名称、タグ、日付を入れてHDDに放り込めばいい。紙のアルバムにしたい人には「MY BOOK」などのサービスもある。好きな写真を編集してネット経由で送信、印刷・製本してくれるというものだ。
デジタル化はアルバム整理と枚数制限から記録係を解放した。さらに秘め事もどんどん解放している。
昔、アルバムは“家族の秘め事”だった。
「ちょっとちょっと、ウチの子どもを見てよ!」という“アルバム自慢”。正直いって、ちょっと苦痛だった。ヨソの家の漬け物は、その家独特の匂いがする。アルバムの写真にもその家族でしか分からない機微がある。長年寝かした写真ほどまた匂いがきつい。
それがデジタル時代になり、家族の秘め事を大っぴらにしたい人が増えている。ミクシィなどSNSへ子どもの写真を投稿するのは普通になったし、フォト投稿サイトからは“ねこ鍋”(参照記事)のようなブームが起きる。冷静になってみれば、これも「ちょっとちょっと、ウチのネコ見てよ!」なのである。苦痛だったはずのことが一大ブームになる――秘め事写真は大きな商売になるのだと考えさせられた。
そして、2人の“愛の秘め事”も増殖する。
「一流企業勤務の社員、彼女とのウフフ写真流出!」というニュースは、いろんな意味でゾクッとするもの。秘め事は恥ずかしいし、騒動で愛も流れてしまっては本人たちにとって実にマズい。ファイル共有ソフトとウイルス感染が秘め事流出のモトとはいえ、もとをただせば秘め事を自前で、しかも大量に製造・保管できるようになったのが原因ともいえる。愛はフォトもべき乗で増殖させる。しかもいったん流出すると増殖が止まらない……。
家族の秘め事は大っぴらにしたい。愛の秘め事はのぞき見したい。大っぴらにしたい人もしたくない人も、デジタル&ネット時代には秒速で閲覧・シェアができるようになった。
この先、写真アルバムはどのように変化していくのだろう? そのヒントは“音楽のアルバム”にある。
新譜をダウンロードして購入する人が増えた。それもアルバム全体を1つの作品というまとまりで買わず「この曲とこの曲だけ」という“つまみ買い”がアリになってきた。アーチストにとっては受難だが、“たとえ数曲でも、売れないよりは売れた方がいい”という計算もある。
楽曲のつまみ買いのように、写真のアルバムもひとつの形をとどめず、その場その場のニーズで融通無碍に編集され、見られ、配信され、掲示され、シェアされ、保存され、ニヤリとされ、時にはプリントされる。地球上でフォトが幾何学的に増殖し、ダイナミックにカタチを変える“アルバム・ビッグバン”の時代がきた。無線LANフォトフレームはその時代の申し子なのである。
著者プロフィール:郷 好文
マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・運営、海外駐在を経て、1999年よりビジネスブレイン太田昭和のマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。現在、マーケティング・コンサルタントとしてコンサルティング本部に所属。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」
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