スイーツ男が増えると、マーケティングが変わる 郷好文の“うふふ”マーケティング:

» 2008年01月24日 08時32分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

 バレンタイン商戦真っ盛り。身のまわりに“甘い男”が増えていませんか。

 あれ? と筆者が思ったのは“男が自分のためにチョコを買う”ケースが増えていると聞いたから。それももらえる/もらえないに関係なくチョコを買うというのだ。渋谷西武B館の紳士服売場では2月1日からチョコの試食コーナー「メンズショコラ・テイスティングバー」がオープン。近年、この季節を狙って「自分バレンタイン」をする男が増えてきたからだという。

1月末から2月中頃までがバレンタイン商戦のピーク。左は、「ル ショコラティエ タカギ」のシングルモルトショコラ。右は「イヴ・チュリエス」のチョコマカロン

 毎日50人限定の人気ショコラブランド。狙いはカップルや夫婦で訪れるギフトの購買促進だろうが、そんな紋切り型の狙いの裏をかくほど、男の“自分ごほうびチョコ”がどんどん増殖している。何を隠そうわたしもチョコ大好き。自分ごほうびをちょこちょこしてます。

女もすなるスイーツ、男も……

 「女もすなるスイーツといふもの、男もしてみむとてするなり」。スイーツのジェンダー(性差)破壊はとどまるところを知らない。

 ファミリーマートでは2007年6月から男性向けのデザートシリーズ「男のスイーツ」を導入し、販売は好調だ。余勢をかって11月からは「男のプディング」シリーズも発売。この大容量さがウケてまたまたヒット。ローソンの「Men'sパフェ」(380円)、セブン-イレブンの「がっつりプリン&チョコパフェ」(490円)も“GATTSURI”という粋なネーミングもあって大好評を博している。

 試しにいくつか買ってみたところ、「がっつりレアチーズケーキ」などはすごいボリューム。ここまでくるとワタシ的には、“女もすなる”ぐらいのサイズでいいかな。

セブン-イレブン「がっつりレアチーズケーキ」(右)、ローソン「十勝冬プリン」(左)と、「香ばしクリームブリュレ」「グランブルケーキ」

 

ジェンダーフリーか、ジェンダーリバースか?

 男もしてみむとては、食べるだけにあらず、作りたい男も増えてきた。男性シニアが料理にハマるという現象はここ数年でかなり市民権を得てきた。東京會舘にはシニア男性限定の料理教室コースがあるが、その中にもしっかり“製菓コース”の月がある。「ベターホームのお料理教室」にはなんと6700人以上の男性お料理会員がおり、男性向けのお菓子教室もパン教室もある。

 男のスイーツ詣でにクッキング嗜好。甘味には性差はないという“ジェンダーフリー”な原点回帰なのか、はたまた男と女の性差を入れかえる“ジェンダーリバース”な原点放棄なのか。女から男に限らない“入れかえ現象”を、スイーツ以外にも思いつくままに挙げてみよう。

  1. スキンケア(性差なく基礎からスッキリ)
  2. ネイルケア(男も興味津々)
  3. メンズ脱毛(今やフツーなのか?)
  4. 細眉(男も女も高校生も中学生もスポーツ選手も)
  5. トートバッグ(私も今やトートで通勤)
  6. 腕時計(男モノをする女、女性用サイズを好む男)
  7. 携帯電話のカラー(ピンキィな男、グレイッシュな女)
  8. ボクササイズ(男も女もパンチ!)
  9. ビリーズブートキャンプ(女も軍隊へ行こう?)
  10. 男モノのヘアジェルの女使用(なぜ?)
  11. 男の下着の女使用(逆もまた真なり、ではない)

 まだまだあると思うけれど、だんだん自分の性を見失いそうになるのでやめておく。

スイーツなカミングアウト

 “男のスイーツ現象”は、必ずしも男性の女性化とはいえない。これまでは女の牙城に入りたくてもつけいる隙がなかったが、何かにきっかけで女の城の城壁にヒビが入った。すると堤防が決壊するように、我も我もと城内になだれこんできた。

 スイーツ予備軍が苦い男の仮面をとって「オレも甘味好きだぁ!」と名乗りを上げる。スイーツなカミングアウトができたことでホッとした男たちが多いのではないか。

トップバリュの24色ランドセル

 子どもにもジェンダー破壊が進んでいる。イオンのPB、「トップバリュ」の24色ランドセルは今や全国的な人気。男=黒、女=赤公式はすでに崩壊した。

ジェンダーはニュートラルに向かって……

 「男はマスキュラーでマッチョな世界にいるべきだ」「男が稼いで女は家に」「女はそういう男を愛すべきだ」――そんな日本の“男>女”公式は、おおむねバブル崩壊の頃にすっかり消え去った。「この国の足元はバブルがはじけてグラついている。グラついているなら揺れる心を出しても誰も変だとは言わないだろう」、そんな気分が男にも女にも広がってきた。

 ジェンダーリバースでもジェンダーフリーでもなく、“ジェンダーニュートラル”。

 男は女が美味・悦楽を知っていることを羨んでいた。女は男がやっていることにダイナミックさと自由を感じた。じゃあ、それを入れかえっこしませんか? 男と女が了解しあった。できあがったのは非武装のジェンダー中間地帯。そこが“中間”ではなく“真ん中”になってきてしまった。

 ジェンダーニュートラルなマーケティング、どう対処すればいいのか?

 多分、ゆるくニュートラルに考えればいいのだろう。例えば旅行。女の旅行には、アロマやネイルやオイルや岩盤浴……そんな快適ワードが散りばめられている。それに対して男の旅行には、「ひとり旅」「自分探し」「大人のOFF」など、どことなく漂流ワードがへばりついていた。

 「実は男も、アロマもネイルもオイルも岩盤浴もやってみたい」と考えてみる。男同士でそんな旅行パッケージは悪くても、男女カップル向けならいい。そうするとニュートラルな旅行市場が生まれる。

甘い男が増えると……

 性差をいったんチャラにして、ヒトのニーズからマーケティングを組み直す時期にきたのだろうか? ジェンダーニュートラル現象、マーケティング屋にはかなり衝撃である。なぜなら「マーケティングの8割は女のこと」というのがマーケティングの常識だったからだ。

 モノセックス、ユニセックス……そんなしきたりをいったん無視した商品・店舗・サービス開発を迫られているのだとすれば、実にチャレンジングな課題となる。女性消費者の観察だけでなく、男性観察が楽しくないだけでなく、マーケティングの仕事が変わる。甘い男が増えるとマーケティングが変わる。

 それでも性差が残るのは浮気心。女性は美味しいモノ、面白いコトに敏感だが、どうもはやり廃りにも敏感で浮気っぽい傾向がある。一方男は、いったん味を占めるとまっしぐら。美味しいお店に通いつめる、支持する、人に紹介する……そんな男性も、女性には浮気なのは説明がつきませんが。

著者プロフィール:郷 好文

 マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・運営、海外駐在を経て、1999年よりビジネスブレイン太田昭和のマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。現在、マーケティング・コンサルタントとしてコンサルティング本部に所属。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」


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