KDDI、米国でのMVNOは今どうなっている?ロサンゼルスMBA留学日記

» 2008年04月01日 17時47分 公開
[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 KDDIが米国で、MVNO事業を推進している(記事参照)。米Sprint Nextelの回線を利用するかたちで、2007年には三洋電機製の日本語環境端末「KDDI Mobile 6600-J」もリリースした。

三洋製KDDI Mobile 6600-J。外観だけ見ると米国でよく見る薄型端末とさして変わらない印象だが、中身は日本人向けに作りこまれている

 具体的にどのようなサービスなのか、事業の狙いは何なのか。KDDIの米国法人であるKDDI Americaのロサンゼルスオフィスで、Pacific and Western Region バイスプレジデントの西森克矢氏に話を聞いた。

日本向け国際通話の安さをウリに

右から、Pacific and Western Region バイスプレジデントの西森克矢氏、セールスアンドマーケティング部アカウントエグゼクティブの今井篤人氏

 KDDIは従来から、auの「GLOBAL PASSPORT」対応端末のように海外で使える携帯端末を提供していた。しかし、KDDI Americaが提供している「KDDI Mobile」はこれとは少々異なるもの。基本的に、海外赴任者や留学生など“海外で暮らす”日本人ユーザーをターゲットにしており、国内の契約を海外に持ち出すのではなく「米国内で契約する」携帯電話となる。

 通話プランは、月額29.99ドル(無料通話200分)の「プランS」から月額69.99ドル(無料通話1200分)の「プランL」まで、複数を用意する。この料金自体は、ほかの米国キャリアと特段違いはないが、ポイントとなるのが国際通話。日本宛ての通話の場合、固定電話宛ての通話料を無料通話分に含めるなど、ユニークな料金設定でほかとの差別化を図っている。

 日本語環境に対応しているのも大きな特徴だ。前述のとおり、2007年にこのサービス向けに開発したKDDI Mobile 6600-Jをリリース。メニュー画面を日本語に設定できるほか、日本で見慣れた「あいうえお」からなる文字入力インタフェースで文章を作成できる。

 「同端末のユーザー同士で、日本語テキストメールを交換できる。auのCメールを含め、ほかの端末とのテキストメールのやりとりでは現段階では文字化けしてしまうが、GmailやYahoo!メールといったWebメールを使えば日本のユーザーと日本語メールを送受信することも可能だ」(セールスアンドマーケティング部アカウントエグゼクティブの今井篤人氏)

 さらに、日本語のモバイルサイトを用意している。これは日本の携帯用ポータルサイトほどではないが、KDDI Mobile向けに用意された「ニュース」「天気」「地図」「ホビー」などからなる日本語ポータルサイトとなる。コンテンツの詳細は同社のサイトで詳細を確認できる(参照リンク)。「例えばスポーツニュースは、スポニチさんのサイトに飛ばすといった仕組みで、日本のニュースを閲覧できる」(今井氏)

 米国で携帯を契約する場合、外国人など米国のソーシャルセキュリティナンバーを持っていない人間は数百ドルのデポジット(預かり金:1年後に返還される)を要求されることがあるが、KDDI Mobileに契約すればデポジットの必要がない。これも1つのメリットとなる。

 端末は米国の携帯販売店で提供されており、「ロサンゼルスであれば日本人街を中心に、十数店舗で取り扱っている」(西森氏)とのこと。なお、法人向けソリューションとセットで組み合わせて販売することもあり、その場合は米国にある日本法人を対象に営業をかけているという。

日本人向け市場だけでは限界も

 KDDI AmericaはSprintからMVNOの形で帯域の提供を受けている。その契約の詳細については明かされなかったが、数千億円の投資をして帯域を買い取り、それをサービスに利用するという話ではないようだ。「Sprintから従量制に近い形で卸売り価格が設定されており、そこにKDDIとして必要なコストを乗せて提供する仕組み。最初に何百億という投資をしてしまうと、どうしてもサービスが赤字になってしまう」と西森氏は話す。

 もちろん、米国に滞在する日本人のマーケットが小さいわけではない。「ロサンゼルスだけでも日系企業が400社ある。そのうちKDDIが250社ほどをクライアントとして抱えている。全米でいうと、KDDI Americaは2000社のクライアントを持っている」(西森氏)。ただ、そうはいっても日系企業の社員がみな日本人というわけではない。業態にもよるが、米国オフィスの半数以上が現地採用の米国人、という企業も存在するわけで、“日本語対応”あるいは“日本への通話が安い”ということをウリにした端末では限界がある。

 そういう意味では、KDDIとして米国ユーザーをターゲットにした「より本格的な米国進出はあるのか?」との疑問も出てくる。だが西森氏は、あくまで慎重な構えを見せる。社内で検討をしていることは確かなようだが、それに伴うリスクや、国内市場への投資とのバランスなどを考えると、今のところは具体的なコメントを控えたい考えのようだ。

 現段階では、「KDDI Mobile」とは米国に滞在する日本人が、なるべく日本と変わらない環境で携帯電話を楽しめるサービス。そのニーズは確かに存在しており、ユーザーからの反応も上々だという。

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