マイナスイメージを逆手に――悪役マーケティングのススメ郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)

» 2008年07月10日 17時59分 公開
[郷好文,Business Media 誠]
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知的から痴的への悪役ポジショニング

 知的さゆえにTBS『筑紫哲也 NEWS23』に抜擢された山本モナさんは、不倫スクープ写真でわずか5日で降板し、一世風靡(ふうび)の悪役となった。

 誰が知恵を付けたか、自粛3カ月後の復帰バラエティ番組では“スイカのかぶりモノ”司会で復帰した。もちろん“叩いて!”というシャレ。アイデアの黒幕は北野武さんなのか。その後の出演番組でも美貌に似合わない天然さがウケ、「う〜ん、これはあんがい地だね」というイメージがじわじわ広がった。

 頭の良さがマイナスとなって、“知的な悪役”は世の人に嫌われる。悪に落ちた彼女をどう復帰させるか? 知的をいったん捨てさせよう。知的は避けて“痴的”へ、“悪役転じてお笑い役”という賢い台本が作られたようだ。

 奥菜恵さんと山本モナさんの“悪役ポジショニング”をしてみよう。

奥菜恵さんと山本モナさんの悪役ポジショニング図

 タテ軸は役者の「悪役軸」。事件などで「悪に仕立てられた」が元は善玉な人は上へ、“元来悪いヤツ”は下に位置付けられる。ヨコ軸は世間の「炎上軸」である。左は“憎たらしい”、右は“憎めない”。右上は好“漢”度が高く、左下は悪“漢”度が高い。

 愛憎深き奥菜恵さん、路上でケンカのゴシップの頃は「女優だからそのくらい当たり前よ」と思われていたが、一連のプッツンで悪役度が高まった。恋多きモナさん、事件発生時に“憎めないけど元々魔性のオンナ”で右下に落下。だがそこからバラエティ番組などで見せるふっきれたキャラで好感度アップ。最新情報(某野球選手とのゴシップ)ではまた落下だろうか?

 “悪役、実は痴的”で好漢度が高まる。「あ〜まずい! もう一杯!!」の青汁CMの八名信夫さんはかわゆいオヤジだ。『高校教師』で近親相姦の父役など、数々の悪役を演じた峰岸徹さんは、今や中年トライアスロン隊を結成し、落語やバラエティではオヤジギャグも光る。

 余談ですが、ある社長は「経営コンサルタントは嫌いだ」と語った。「なぜですか?」と聞くとこう答えた。「コンサルタントってのは知的暴力団だからだ」。筆者も悪役なのか!? まずいな、かぶりモノができるまで“モナれ”ないと。

悪徳企業は長続きせず

 悪役は知的な悪にはとどまれない。歴史を振り返れば“痴的”に落下する引力がある。最近では飛騨牛の偽装販売が発覚した丸明の社長だ。

 表沙汰(おもてざた)になる前は、従業員たちは恐怖ゆえ“表立って”憎めなかった。「憎めないヒトねえ」ではなくワンマンゆえの「憎めない」だ。偽装が発覚し「何を私がやましいことをした」「すべて従業員がやったこと」と開き直ったとき、社員の“憎たらしい”が炸裂(さくれつ)した。抑圧されていた感情が取材陣の目の前で流出した。罵声を浴びて、社長が自分の非を渋々認めたところで、悪は痴に落ちた。

丸明社長と悪役男優の悪役ポジショニング図

 うなぎ養殖など類似事例はいくつも思い浮かぶ。勧善懲悪好きのニッポン社会、悪役企業は長続きせずバッシングされる。悪役が経営者だけか、会社組織までか、立ち直りの可否はそこが分かれ道だ。

会社はしょせん昼間の演技さ

 粉飾決算事件で悪役となったライブドア。悪役退出後、残されたライブドア社員は“知的で憎たらしい”ポジションからの再出発であった。案外その立ち直りは早かった。なぜか。悪役という強い負のイメージは究極のブランド力でもある。その近寄りがたいエッジの効いたイメージは、善にはない存在感だ。悪役結審も間近で、さらに追徴課税もされているが、“こんなに一生懸命です!”と純なところを訴求し続ければ、立ち直り反転力には磨きがかかるのである。

 悪に落ちた企業とはいえ、しょせん会社は昼間の演技に過ぎないのだから。

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