旧住宅金融公庫のゆとりローンだけが、問題を抱えているのだろうか。金融機関が扱っている一般的な住宅ローンに問題点はないのだろうか。旧住宅金融公庫と金融機関を合わせた住宅ローンの融資実行額は、1985年から1989年(バブル経済期)の間で年3〜4兆円、1993年から1997年(バブル崩壊後)の間で年6〜9兆円。石川氏は「バブル経済が崩壊したにもかかわらず、住宅ローンの融資額は増えている。これは政府が、バブル崩壊後の景気回復を有力な起爆剤として『住宅投資』を活用しようとしたからだ」という。
融資条件を緩和するなどして、住宅ローンを借りやすくした結果、融資残高は増えていった。しかし今の状態で「景気は回復した」と言えるのだろうか。「実際に景気は停滞している。もちろんお金を借りたことは住宅ローンを組んだ人それぞれの自己責任だが、政府の失敗した政策の“ツケ”が回ってきていることも否めない」と分析する。
石川氏は自身の経験を踏まえ、住宅ローンの問題点を4つ挙げる。1つめが「見直されない前提条件」だ。「日本の住宅ローンは終身雇用と右肩上がりの給料、不動産価格の上昇が前提条件。しかしこの前提条件は、現在の日本では崩れている。経済情勢は変化しているのに、政府も金融機関も住宅ローンを見直そうとしない。このままでは多くの住宅ローン利用者の返済が困難になるので、『銀行が貸してくれるから借りる』といった考えは危険」としている。
2つめは「担保掛け目の甘さ」。金融機関は物件に対し、その価値を評価して融資を実行する。物件価格に対して融資を実行する金額の比率を「掛け目」というが、70〜80%に設定している金融機関が多い。しかし中には物件価格の100%融資するところもあり、さらには登記費用まで貸すところもある。「物件の価値以上に融資を受けていると、返済するときに困ってしまうことがある。何らかの事情で自宅を売りに出そうとしたとき、住宅ローンの残高が住宅価格を下回っていなければ、自宅を失った上に借金を返済しなければならない。不動産価格が右肩上がりで上昇している時代であれば問題はなかったが、今はなかなか上がらないので“売るに売れない”といった人も多くいるだろう」と話す。
3つめは「緩い年収基準」。住宅ローンを扱う金融機関は、どんな人たちにお金を貸したいと考えているだろうか。例えば会社経営者など信用力の高い人に融資するのが理想だろう。しかしそれだけでは、融資残高は伸びない。そこで金融機関は年収の低い人たちにも、融資することになるのだ。税込み年収に占める返済額の割合を年間返済比率というが、この年間返済比率が40%までなら「融資OK」とする金融機関は多い。
「年収基準を緩くするということは、収入が低くても家が購入できるということになるが、返済ができなくなるようなローンを背負っていることを忘れてはいけない。例えば年収500万円の人であれば、年200万円まで住宅ローンの借り入れができる。しかも税金や年金などが引かれる前の年収で計算しているので、実際には手取り分の50%以上がローン返済に充てられている」
4つめは「少なく見える毎月返済額」。「家賃並みの返済額で家が買えますよ」といったチラシを見たことはないだろうか。おなじみのキャッチフレーズともいえるが、月々の返済額を少なく見せている手法は簡単だ。(1)借入元金をすべて毎月分割払いとせず、ボーナス返済への配分を多くする(2)35年ローンや親子2世代ローンなど返済期間を長くする(3)低い変動金利で計算している、の3点だ。「当初の返済額を少なくみせるのは、旧住宅金融公庫の手法と似ている。また収入の低い人たちにも家賃並みの負担で家が買えるということは、米国のサブプライムローンに近いものがある」と話す。
バブル経済崩壊後、金融機関は企業への貸出先が減少した一方で、旧住宅金融公庫の住宅ローンの肩代わりを推進してきた。旧住宅金融公庫がバブル崩壊前に貸し出した住宅ローンの金利が上がるタイミングを狙って、借り換えの競争を繰り広げてきた。しかし過剰ともいえる競争は、時として弊害をもたらすことがある。信用力の低い顧客もつかまえようとする金融機関は融資基準を緩めていったことに対し、石川氏は警鐘を鳴らす。「住宅ローン市場が過熱してしまうと、個人を中心とした不良債権問題が再来するかもしれない。また郵政民営化で登場した“超ギガバンク”、ゆうちょ銀行の住宅ローン市場への本格参入も大きな不安材料だ。住宅ローンをめぐる競争が過剰に激化すれば、構造改革の象徴である郵政民営化までもが失政のあおりを受けてしまう可能性もある」
今、日本の住宅需要を支えているのは20代後半から30代半ばが中心だ。「初めて家を購入しようという人は、返済能力ギリギリの物件を手に入れようとする傾向がある。もし今後、金利が上昇し始めると、団塊ジュニア世代の住宅ローン破たんが激増する可能性は高くなる」という。
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