荒稼ぎして“逃げた”輩たち――陽気な成果主義が招いた罪とは?山崎元の時事日想(2/2 ページ)

» 2008年11月27日 07時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]
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陽気な成果主義の弱点

 陽気な成果主義の弱点とはリスクの拡大だ。

 投資銀行のトレーダーやヘッジファンドのファンドマネジャーが一番分かりやすいが、陽気な成果主義のシステムの下では、自分のビジネスのリスクを最大限に拡大する方が得になる。

 想像してみてほしい。大きな損でも、小さな損でも、損をするとボーナスはゼロだし、クビになる可能性が大いにある。一方、大きなリスクを取って大きな利益が上がると、巨額のボーナスが待っている。賭けの方法としては、大きなリスクを取る方が得になることは、容易に理解できるだろう。

 投資に詳しい読者には陽気な成果主義は、「自分の稼ぎを原資産とするコールオプション(ある商品を一定の価格で買う権利)のようなものだ」と言えばよく分かってもらえるだろう。原資産のボラティリティ(値動きのリスク)が大きければ大きいほどオプションの価値は大きくなるので、陽気な成果主義を手に入れた金融マンは、できるだけ大きなリスクを取ろうとする。

 ヘッジファンドの場合、成功報酬(値上がり益の2割程度の場合が多い)で契約しておいて、レバレッジを掛けてリスクを膨らませることができるのだから、運用者側で勝手に手数料率を引き上げることができる仕組みだといえる。仕組みが分かると、半ば詐欺のようなものだと分かるが、もちろん、これは商品を買う側が愚かなのだ。

 どの会社にもリスク管理の仕組みはあるが、新しい金融技術を使った複雑な金融商品の場合、正しいリスク計測を行うことが極めて難しい。例えばサブプライムローンを証券化した商品の場合、リスクの計算には、ローンのデフォルト率の推定が重要な役割を果たす。不動産市況が好調な時期のデータしかなかったのだから、正しいリスク推計ができたとは思えないが、商品の複雑さが、リスクの過小推計を隠した。金融工学それ自体は悪くないのだが、金融工学がリスクテイクの際の煙幕の効果を果たしていることは否めない。

 またボーナスの計算期間が1年で、もらったボーナスは、後に損をしても返還しなくてもいい、という仕組みにも「悪い妙味」がある。

 例えば、サブプライムローンは利払い額が小さい当初の3年程度はデフォルトが起こりにくい。サブプライム商品に投資していたヘッジファンドやこれを自己勘定の在庫として大量に保有していた投資銀行のトレーダーは、最初の1年目、2年目に巨額のボーナスを手にしており、3年目以降にサブプライム商品の価格が暴落しても、人生的には十分に「逃げ切り」の金額を稼いでいたと考えられる。そもそも儲かるビジネスだったからこそ、サブプライムローン問題はこんなに大きな問題に育ったのだ。

経営者自身も1年勝負のギャンブル

 儲けの額を計算する時の評価は基本的には時価評価だが、この時価にも大いに操作の余地がある。

 セールスマンの稼ぐ手数料のような分かりやすいものの場合はいいが、意思決定と行動の結果が数年にも及んだり、利益とその背後にあるリスクの評価が難しい場合には、陽気な成果主義が会社側の「払いすぎ」を生む可能性がある(社員にとっては妙味であり得る)。

 陽気な成果主義がリスクの拡大傾向を持っていることが分かったとして、それにしても、敏腕経営者がそろうはずの投資銀行などの金融機関で、どうして過剰なリスクテイクにストップが掛からなかったのだろうか。

 恐らく原因は、経営者自身が「陽気な成果主義」的なインセンティブを強度に持っていたことだ。彼らにとっても、1年清算勝負のハイリスクなギャンブルが好都合だったのだ。

 陽気な成果主義は、使いようによっては、経営者や社員が、株主の富をリスクの形で盗み出すツールにもなる。今や、資本家は必ずしも経済的な食物連鎖の頂点にいるわけではない。

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