イケてない!? でも身近さが人気――しまむら好調の秘密郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)

» 2009年05月21日 07時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]
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しまむらの店舗運営の秘密

 にわか“しまラー”目線で店舗を一周。イメージと異なることがいくつもある。婦女子モノばかりと想像していたが、男子モノも子どもモノもある。ファッション小物、帽子に靴、リビング(クッションや座椅子)、寝具、果てはファンシー文具まである。その気になれば、部屋をしまラーテイストでトータルコーディネートすることも可能だ。

 どの売り場を見ても、ある種のセンスが漂う品揃え・陳列に感心。衝動的に3点500円のブリーフを握りしめ、さらにその横のジーンズ売り場でハマってしまった。何だか陳列が変なのだ。サイズ別でもテイスト別でも気まぐれでもない、陳列量・スタイル・サイズが計算されたトレジャーハンティング陳列とも言えるのだろうか。いつの間にかあれこれ探して試着もしてしまった、ふう。

 “宝探しの演出”の匂いはあるが、それは決して鼻につく匂いではない。なぜなら、みんな1890円とか2980円なので「良心的だなあ」と思ってしまうからだ。陳列量を絞り、PBとNB(らしきもの)を巧みに配して、探させ比べさせて買わせる。それがどの“ハンガー”にも浸透している。 

 しまむらは完全買取・自社物流網の運営で名高いが、それを支えるのがハンガー単位の単品管理。入荷・返品・交換はハンガーにかけたまま行う。全国の店舗間で、適切な店に適切な商品を1品単位で融通しあう仕組みだ。売れ筋を見切るのが、販売数値分析と“主婦パートの目”と言われる。トータルファッションをたかだか300坪でやってしまう生活者目線がすごい。

 でも中には絶句するアイテムもある。ある都会育ちの女性が、地方都市で初めてしまむらに入り、手袋を買おうとした。あれこれ見て「これかな」と手にしたら、手袋の甲に“ドクロ柄”があったのだという。さすがに買えなくて、靴下を買ったとか。これ、誰とは書けないが、Business Media 誠の編集長さんの話(あ、書いちゃった)。私もドクロのジーンズには手が出せませんでした。

2つの“センターGUY”を結ぶ点と線

 しまむらの躍進の理由は、ほかにもある。それはタレントの益若つばささん。TV番組『情熱大陸』で、彼女がしまむらで買い物をする姿が放映された。自身のブログでもしまラーなコーディネイトぶりを公にして、共感・好感が広がった。「しまむらでコーデするのは正しい!」というイメージがパッとちまたに広がり、安くてお得でトレンディなアイテムの聖地となった。

 彼女は埼玉県越谷市で生まれ育ち、渋谷通いでモデルになった。都心3県(埼玉県、千葉県、神奈川県)の市外局番04地帯の若者のリアリティとドリームを背負う存在だ。それを『2つの“センターGUY”を結ぶ点と線』と表現したい。「渋谷センター街を歩く若者」とかけて、そのココロは実は「ファッションセンターGUY」ばかり。渋谷と、地元民しか分からない地名店舗の2つの点を結ぶ線が、直通乗り入れ電車である。

しまむらプライドというポジショニング

 郊外でしかもB級立地という“身の丈リアリティ”でありながら、「実はトレンドセッターにもなれるじゃん」、そこがしまむらのアンビバレントな魅力だ。その消費心理が“しまむらコンプレックス”を“しまむらプライド”へと突き抜けさせた。

 みんなが「私はしまラー」と胸を張れなかったころ、しまむらは図の左下、身の丈価格で微苦笑コンプレックスを抱えるポジションだった。だがトレンド企画力を付け、点を線で結ぶ若年層しまラーを味方につけて、「身の丈 but プライド」にランクアップした。

 このポジションは相当ユニークだ。なぜならGAPもユニクロもH&Mも、大きくなるとみんな右上の「高級 and プライド」に向かう。効率性と大量販売を志向するのがフツーだ。一方、しまむらは店舗規模を保ち、宝探しができる品揃えを徹底し、身の丈価格を付ける。“しまむらプライド”という独特なポジションを築いた。

 でも果たして私は“しまラー”なプライドは持てるのか。それは着てみんと分からんね。

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