それでもメディアへの攻撃は嫌がらせの域を出ない。それよりも攻撃される側が最も恐れるのは、国の根幹をなすインフラが攻撃されること。しかも組織化したハッカー集団が、情報機関などの協力を得て動けば、原発や鉄道、通信などのインフラを破壊することだってできなくはないのだ。現に2010年に発生したイランの核燃料施設に対するサーバー攻撃で、それは証明されてしまっている(サーバー攻撃でウラン濃縮用遠心分離機を稼働不能にした)。
その危険性を最も分かっているのは、イランへのサイバー攻撃を実行したとされる米国自身だ。そこでオバマ大統領はすでにサイバー戦争に関する軍事費を増加し、国防省に属するサイバー司令部の規模を現在の900人から4000人に増やす。
さらに、米国に脅威になり得る海外からのサイバー攻撃を認識したら、大統領の承認によって「先制攻撃」できる決定をしている。先制攻撃とは、宣戦布告なしに相手国の対象に「破壊的なコード」を埋め込むことを意味する。例えばウイルスなどだ。
ますますサイバー空間がきな臭くなっているが、ここに素朴な疑問が生まれる。例えば「ハッキング王国」である中国と、「インターネットの生みの親」である米国が全力を上げてサイバー戦争を始めたら、どうなるのか。どちらが強いのか。
マンディアントのある幹部は、メディアの取材に「どのラインからを戦争と呼ぶかは難しい」と前置きをしながらもこう語っている。
「中国のアクセス能力は恐ろしいほどだと言える。今回調査で判明した攻撃(全部で141カ所)は中国が行ったサイバー攻撃の一部に過ぎない。他の目的でもかなり数多くの侵入を行っており、広いレベルの攻撃能力を持つ。今戦争が始まったら、彼らがその能力をどんな形で使うかは予想がつかない。ただ深刻なダメージを与えることができるのは間違いない」
米国のシステムはインターネットにかなり依存している。政治、経済、インフラのどれもネットにつながり、それがサイバー戦争における米国の脆弱(ぜいじゃく)性になるとの声もある。例えばネットへの依存度が低い北朝鮮は、それ故にサイバー戦争に負けることがない。中国も米国ほどの依存度ではない。
まだまだ戦力が分かりにくいのもサイバー戦争の難しいところだろう。
モンタナのテレビ局で起きた「ゾンビ」騒動では、今も犯人は分かっていない。米国内のハッカーによる仕業か、能力を顕示するために外国のハッカーが仕掛けた挑発か。少なくとも、米国のどこかで起きた笑い話だと済ますべきではないだろう。いつ日本で同様のハッキングが起きても不思議ではないからだ。
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