セイン:それが呼びかけの言葉に変わったのは、どうしてでしょう?
長尾:ちょっとした依頼や呼びかけに使われる「すみません」には、「あなたの仕事の邪魔をして申し訳ない」という意味が込められているのだと思います。
したがって、要求を聞いてもらって当然のシチュエーションで、客の立場の人間が「すみません」を乱発するのはちょっとふさわしくないかもしれません。しかし、ほかに適当な呼び方がないので、みんな「すみません」と店員を呼び止めるわけです。
セイン:つまり「すみません」は英語の「Excuse me.」に相当すると考えていいのですね。「Excuse me.」は呼びかけにも謝罪にも使われますから。
長尾:「どうも」が単独でいろいろなあいさつや応答の言葉に使われるようになったのは、そんなに昔のことではないらしいです。元NHKのアナウンサーがあまりに有名になってしまい、道を歩いているといろいろな人からあいさつされるようになりました。ところが、顔を覚えていない人から親しげにあいさつされると応対に困ります。大事な人にいい加減なあいさつをするわけにはいきません。
そこで、とりあえず何とでもとれる「どうも」と言っておき、その後の相手の態度を見て、どんなふうに応対すべきかを決めるという作戦を考えました。そして彼がテレビなどで「どうもどうも」とあいさつをしている姿が日本中に放送され、みんながマネをし始めたというのです。
セイン:何と! 人気者の苦しまぎれの一言が、世界中で知られる日本語のあいさつになってしまったんですか。しかも、たかだか数十年の歴史しかないと。うーん、まさに「事実は小説より奇なり」です。
長尾:セインさん、いまの格言はぴったり合ってますよ。
セイン:どうも、どうも!
(つづく)
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