機能だけじゃない、スピードとUIも改善――「F-06B」で目指した“最高峰”:開発陣に聞く「F-06B」(3/3 ページ)
「F-06B」のインタビューでご登場いただいた開発者は総勢10人――。筆者がこれまでにインタビューした中では最多だ。それだけ、F-06Bには多くのこだわりが凝縮されているといえる。発売から好調に売れているF-06Bの舞台裏を聞いた。
タッチパネルの感度が向上した理由
―― ユーザーインタフェース(UI)はタッチパネルが大きく進化しています。タッチパネルのこだわりについても教えてください。
増田氏 タッチパネルは「F-01A」のころからサクサクを目指して開発してきました。今回は「スピード」と「UI」を改善し、「F-01B」や「F-04B」と比べても速くなっています。F-06Bではグラフィックも抜本的に変え、キーを出さなくてもタッチ操作ができるよう調整しました。
―― 待受ランチャーは従来のモデルから見え方が変わっていますね。
高松屋氏 指をスライドさせると下からするするっと出る、あるいはタッチするとパッと出るなど、表示方法を工夫しています。また、F-06Bではメニューの項目をワンタッチで選択できるよう改善しました(従来機種ではカーソルを合わせてからタップしないと選択できなかった)。このほか、メニューの第2階層以降の画面は、複数のページがある場合、(ページを切り替えるのではなく)上下にスクロールしてスムーズに項目を探せるようにしました。
―― 文字のサイズや行間もタッチで操作しやすいよう、大きくなっていますね。メニュー第2階層以降の文字サイズは変更することもできますか?
高松屋氏 「2タッチ操作モード」に変更すると、従来モデルと同じ文字サイズと行間幅になります。
―― タッチパネルの感度はどのように上げたのでしょうか。
井上氏 F-06Bでは薄型化を図るために、ディスプレイに強化ガラスのパネルを採用しています。パネルが薄いので、指と電極の距離が近くなって感度が上がります。あとはガラスの方が静電容量の誘電率が高いのも理由の1つです。F-09AやF-04Bにはアクリルをディスプレイに採用していました。
―― マルチタッチには対応しているのでしょうか。
山本氏 マルチタッチには富士通製端末では初めて対応させました。ブラウザと写真を操作できます。
―― 文字入力でフリック操作が可能になったことも大きな進化点ですね。
高松屋氏 今回はソフトウェアキーボードのUIも変え、2タッチではなく一般的なテンキーと同じ感覚で入力できるようにしました。フリック入力は、iPhoneに慣れている人が多いことを考えて採用しました。
―― キーをタップした後に表示される文字は、iPhoneのように十字方向ではなく、扇状に出るのが独特ですね。
高松屋氏 (iPhoneのように)十字方向に表示させると、指を置いたところに文字が隠れてしまいます。扇状だと上に文字が出るので、どこにフリックすべきか分かります。慣れるまでは1回文字を出してからフリックする方が入力しやすいでしょう。
―― スマートフォンのフリック入力は十字型に表示されるタイプが一般的です。扇形だと、例えば下にフリックしても母音が「お」の単語が出ないなど、使い勝手が異なります。機種によって操作感が違うと戸惑う人も出そうです。
山本氏 そこは今後の検討課題ですね。フリックはもちろん、手書きやQWERTYキーボードも採用しているので、お客さんが使いやすい方法で入力してほしいと思います。
日本語入力システムは「iWnn」を採用
―― 日本語入力システムが従来のATOKからiWnnに変更されました。これは何か理由があるのでしょうか。
山本氏 夏モデルからUIが共通化されつつありますが、iWnnの採用もその一環です。今後は全メーカーがiWnnを採用する流れになるでしょう。もちろんATOKの評判は高く知名度もありますが、“できること”はiWnnの方が多いんです。英語の予測変換やワイルドカードは、iWnnならではの機能です。
―― ワイルドカードとはどんな機能でしょうか。
高松屋氏 同じ文字を入力した回数によって、変換候補が変わる機能です(例えば「あ」を1回打つと「ありがとう」が候補に出るが、「ああ」と打つと「青」が出るという具合。キーを短押しするごとに変換候補が変わる)。
山本氏 「いま」と打つと現在時刻が出るATOKの機能はiWnnにもあります。ATOKの特徴は残しつつ、使い勝手を向上させています。
―― 予測変換の精度はどうでしょうか?
高松屋氏 入力する文字によって違う候補が出ることはありますが、全体的に大きな差はないと思います。
“かなり頑張って”採用した「広辞苑」
―― 広辞苑の電子辞書を収録したDVD-ROMを同梱したのは豪華ですね。
山本氏 電子辞書の利用動向は以前から調査をして、魅力と感じる人が多いという結果が出ていますし、速く辞書を検索できるソフトも開発してきました。同時期に発売したF-07Bもハイスペックですが、F-06BはPRIMEシリーズとして、最高峰を目指さなければいけません。コストなどのハードルを徐々にクリアできたので、同梱することができました。広辞苑を選んだのは、最高峰の辞書であることと、「広辞苑自体が好き」という人が多くいると考えたからです。
増田氏 最近は電子辞書を指定している学校もありますし、電子辞書を持ち歩いてデスクに置いているビジネスマンも多いと聞いています。
―― 市販のDVD-ROMはまともに買うと1万円ほどですが、これを同梱しても端末の価格は据え置きなんですよね。
山本氏 はい、長い目で見れば……と考えて、かなり頑張りました(笑)。お客さんにとっては非常にお安いのではないでしょうか。
―― 同梱版には市販版と同じコンテンツを採用したのですか?
山本氏 F-06Bで認識できるデータ形式に変えただけで、データ自体は同じです。
―― 最薄部はF-09A(約18.5ミリ)よりも薄い約17.1ミリを実現していますし、全体の大きさと重さもF-09Aと大差ありません。
井上氏 今回はFOMA、GSM、GPS、Wi-Fi、Bluetooth、FMトランスミッター、ワンセグ、FeliCaという8つのアンテナを入れながら(Wi-FiとFMトランスミッターはF-09Aにはない機能)、防水にも対応させています。部品の配置はF-09AやF-04Bと比べてもかなり変えました。裏面に備えた指紋センサーのサイズは小さくなっていますが、感度を上げたので、よりスピーディに認識できます。
―― Fケータイには折りたたみ、ヨコモーション、セパレート、回転2軸などの形状がありますが、今後もこれらの形状を継承していくのでしょうか。
増田氏 折りたたみをベースに、動画やインターネットの利用に適したヨコモーションのよさ、横画面で見るよさを伝えていきたいですね。このあたりは機種の特徴に合わせて展開していきます。また、PRIMEでタッチパネルは標準的になるでしょう。
F-06BはPRIMEシリーズとしてスペックの高さを重視したのはもちろん、滑らかに動くスイングや、感度の向上したタッチパネル、新しいCPUで高速処理を図ったカメラなど、カタログからは伝わりにくい“使用感”にもこだわった。広辞苑の電子辞書を丸ごと同梱するという思い切った試みも、功を奏したといえる。売れるケータイの開発がいっそう難しくなっている中で、F-06Bが1つの答を示したといえそうだ。
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