2013年は、MNP好調の先を見据える――KDDI 田中孝司社長に聞く:新春インタビュー(3/3 ページ)
ゲームチェンジによる「auモメンタムの回復」を実現し、2012年に最も勢いを付けたのがKDDIだった。同社はこの好調をどう見ており、2013年にどうつなげていくのか。新春インタビュー第2弾は、KDDIの田中孝司社長に、2013年の展望を聞いた。
iPhoneの比率はいずれ4割程度に
―― 端末ラインアップについてですが、2012年の新春インタビューで田中社長は、「iPhoneの販売比率は2割程度にしたい」とおっしゃっていました。しかしふたを開けてみると、9月以降のiPhone 5はとても販売比率が高いですね。
田中氏 ええ、iPhoneが5割以上になっています。しかし、僕は年間通して見ていくと、iPhoneの販売比率は(端末総販の)4割程度が妥当かなと思っているのですよ。ただ、世界的なiPhoneとAndroidスマートフォンのシェア分布よりは、日本はiPhoneの比率が高くなるという手応えを感じています。率直にいって、日本人はiPhoneが好きなんです(笑)
―― 海外のように安価なAndroidスマートフォンの市場が、日本では弱いですしね。
田中氏 日本人はいくら安くても、安いだけで(ブランド力が低くて)よく分からん端末っていうのはダメなんですよね(苦笑) だから今のところiPhoneが強い。ただ、Androidスマートフォンでもいいものが出てくれば、自然とシェアの適正化になるんじゃないかと思っています。
―― 米国ですと、iPhoneは比較的裕福な中産階級、Androidスマートフォンは低所得者層向けとして数が売れているという傾向がはっきりしています。日本では、こういった所得ヒエラルキー型の棲み分けみたいな形になると思いますか。
田中氏 そのあたりはけっこうはっきりしていて、iPhoneが売れるのはアーリーアダプター層。ここでは圧倒的に強い。そして、もう1つの層が、(アーリーアダプター層の影響を受けやすい)フォロワー層。このあたりは日本人の国民性が出ています。ただ、今後はさらにユーザーの裾野が拡大していくことを考えると、いずれはiPhoneの比率が4割程度に落ち着くのではないか、と見ています。
―― 一方で、Androidスマートフォンのラインアップについてはどのように考えていらっしゃいますか。
田中氏 ユーザーが選ぶ際の指標が変わってきましたね。「HTC J ISW13HT」や「HTC J butterfly HTL21」のように、日本市場に最適化されたグローバルモデルが出てきて、それが日本で売れて、アジアにも広がる可能性が見えました。一方で、ハイスペックだけが求められる時代ではなくなってきたとも感じます。
キャリアとして「イノベーションの素地」を作る
―― グローバルでのモバイルIT市場全体を見た時、いまトレンドセッターの立ち位置にいるのは米国西海岸のIT企業です。しかし、過去を振り返りますと、日本はケータイの世界で、モバイルITの最先端に立ち、トレンドセッターでした。田中さんから見て、今後、日本のモバイルIT産業が再びキャッチアップではなくトレンドを作りだす側に回れると思いますか。
田中氏 それはとても重要な視点ですね。僕はずっと思っているのですけれど、やっと日本でみんながスマートフォンを使うようになってきました。そして、(市場の)裾野が拡大して文化が育まれる土壌ができてきたわけです。
ここで注目なのが、日本ではアプリストアの上位10位以下のアプリの利用率が、(他国に比べて)けっこう大きいということなんです。スマートフォンを活用する・アプリを使いこなすユーザーの素地は豊かなんです。むろん、すべてお客様にばかり頼っていてはダメで、そういったところに向けて我々もいろいろな提案をしていかなければなりません。そうやって切磋琢磨をしていけば、日本が(スマートフォン時代のトレンドセッターとして)もう一回、有利な立ち位置になれるのではないかと思うのです。
―― 日本市場でもっとも優れているのは、ユーザー層の厚みですね。
田中氏 そう、全体として見れば、潜在的なリテラシーは高いのです。そこで我々は「auスマートパス」としてアプリを試す・利用する際のハードルを下げました。キャリアがすべてを提供できるわけではありませんが、我々にできることはタッチポイントを広げることです。さまざまなアプリやサービスを、お客様の目に触れるように紹介していくことだと考えています。
キャリアがイノベーションが起きやすい環境を作って、そこで生まれたさまざまな新しいものが、世界一リテラシーの高い国民のもとに届いて呼応する。こういう状況になれば、日本がトレンドを生みだすことも可能になるのではないでしょうか。
―― auスマートパスなどは、インキュベーションの仕組みにもなりますね。
田中氏 ええ、そういった効果も狙っています。当初は我々は赤字になりますけれど(苦笑)、それで多くの人がアプリやサービスに触れていただき、市場が回ることで新しいものが生まれる環境が作れます。そして市場が拡大すれば、キャリア・ユーザー・コンテンツプロバイダーにとって、いずれは「三方よし」の仕組みになればと思っています。
新たなチャレンジで、市場を広げていく
―― 2013年、KDDIはどのような姿勢で臨みたいですか。
田中氏 これは僕がずっと思っていることなんですけど、行動を起こさないと新しい世界は生まれないわけです。業界の中で競争することももちろん大事なのですけど、将来に向けて、市場を広げていきたいと思っています。KDDIとして新たなチャレンジを積極的にしていきますので、そこに注目していただきたいですね。
関連記事
3M戦略を具現化し「ゲームチェンジ」する2012年――KDDI 田中社長に聞く
「auモメンタムの回復」を掲げ、田中孝司氏が小野寺正氏に変わってKDDIの社長に就任した2010年12月から約1年。マルチネットワーク、マルチデバイス、マルチユースの3M戦略を推進した2011年と、さらなる飛躍を目指す2012年の展望を、田中社長に聞いた。スマートフォン時代の新生KDDIは「マルチデバイス」「マルチネットワーク」を目指す――KDDI 田中社長に聞く
2010年前半は厳しい戦いを強いられたKDDI。しかし、2010年12月に小野寺正氏から田中孝司氏へと社長が代わり、スマートフォンを中心とした商品ラインアップをそろえる戦略へと大きくかじを切った。2011年、KDDIはどう戦っていくのか。新社長の田中氏に聞いた。キャリアメール対応と地下鉄のLTEエリア拡大で「iPadもauが本命」――KDDI田中社長
「iPad mini」と「iPad Retina ディスプレイモデル」のWi-Fi+Cellular版を発売したKDDI。発売イベントで田中社長は、LTEインフラの強化とキャリアメールへの対応をアピールし「iPadもauが本命」と強調した。スペックだけじゃない――“ひと目惚れ”スマホ「HTC J butterfly」で目指すもの
「米国や欧州でも発売してほしい」――そんな声が聞こえるほど注目を集めているHTCの新型スマートフォン「HTC J butterfly」。5インチフルHD液晶やクアッドコアCPUなどスペックの高さが注目されやすいが、HTCが訴求したいのはスペックだけではないという。KDDIの上期決算は減収減益、今は「成長が確かになりつつある潮目の時」――田中社長
KDDIの中間決算は減収減益となったが、「進捗は計画通り」と田中社長。auモメンタムは完全回復したという認識で、3M戦略の基盤構築がほぼ完了した今期を「成長の起点の年」と位置付けた。iPhone 5の投入効果、10月も――KDDIのMNP、「10万は確実にいくだろう」と田中社長
KDDIの田中孝司社長が、10月の番号ポータビリティの動向について説明。現時点で、転入数が9月の実績に迫っていると自信を見せた。料金最強、ネットワーク最強、端末の機能も数カ月先行――KDDI田中社長らが語る「iPhone 5」と「LTE」
テザリング対応や料金プラン、そしてエリアの広さや通信速度、基地局数――。iPhone 5をめぐり、あらゆる点で“ガチンコ対決”を繰り広げるソフトバンクとKDDI。改めてKDDI側の優位点を聞いた。au版iPhone 5のLTEエリアは、テザリング対応はどうなるのか――KDDI 田中社長に直撃
米国サンフランシスコに滞在中、偶然KDDIの田中孝司社長とお目にかかり、「iPhone 5」についてお話を伺う時間をいただいた。KDDIの2.1GHzのLTEエリアは今どういう状況なのか、テザリングは解放するのか、などなど気になるポイントを聞いた。“auモメンタム完全回復”を宣言、3M戦略の立ち上がりも好調――KDDIの田中社長
「期初に掲げた4つのKPIが劇的に改善し、auモメンタムは完全回復した」――決算会見に登壇したKDDIの田中社長は、こう宣言。年明けから本腰を入れ始めた3M戦略も好調に推移していると自信を見せた。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.