ドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの冬春モデル戦略を読み解く:石野純也のMobile Eye(9月30日~10月11日)(3/3 ページ)
この2週間はドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルから冬春モデル(KDDIは冬モデルのみ)が発表され、モバイル業界は大いに賑わった。端末に加え、ネットワーク、サービス、料金にも焦点が当たりやすくなった。今回は3社の戦略をまとめた。
ソフトバンクは我慢のとき? 端末は少数精鋭
ドコモやKDDIが幅広いAndroidスマートフォンの端末をそろえてきたのとは対照的に、ソフトバンクの冬春モデルは、よく言えば厳選された、悪く言えば手薄なラインアップだった。スマートフォンは「AQUOS PHONE Xx 302SH」「AQUOS PHONE Xx mini 303SH」「ARROWS A 301F」に加え、ディズニー・モバイルの「DM016SH」の4機種のみ。DM016SHは、ベースがAQUOS PHONE Xxということもあり、事実上3機種しか発売されない。冬商戦に限って言えば、春モデルのAQUOS PHONE Xx miniが除かれるため、ラインアップは2機種になる。
ソフトバンクの代表取締役社長兼CEOの孫正義氏は「ドコモさんのツートップのように、数多く端末を発表する時代からある程度商品を絞り込んで、重点的にそれらの商品を世に出していく時代になった」と語り、端末ではなく、ネットワークやサービスでの競争が重要になることを強調した。先に解説したように、そのことについては疑いの余地はない。一方で、それはあくまで端末が“横並び”になった上での話だ。例えば、XperiaやGALAXYをソフトバンクの魅力的なネットワークで使いたいというユーザーがいても、現状ではその選択肢は用意されていない。サービスについても同様だ。3辺狭額縁で画面占有率が80.5%と高いAQUOS PHONE Xxはインパクトがあり、ソフトバンクならではの商品と言えるが、ラインアップが他社より手薄な中でどこまで戦っていけるのかは未知数だ。
もちろん、孫氏もこうした状況に満足していないことはうかがえる。買収した米・Sprintとのシナジー効果について問われた孫氏は、次のように語っている。
「ボリューム効果が出てくるのは、今から半年後から1年後。そのころに続々と出始める。つい、2カ月ぐらい前までは、ソフトバンクが本当に買えるのか、DISHの傘下に入るのか、分からない状況だった。その状態で、端末やネットワークの正式な発注はできない。今、まさに先週も、世界的な端末メーカー、通信機器メーカーのトップと交渉を開始し始めている状況。今までだと、世界的なメーカーのトップがわざわざ東京に来たり、私がシリコンバレーにいてメール1本で『集合』とやれるような交渉力を持てたりはしなかった。特にAndroidにおいては、ソフトバンクが買っている台数は非常に少ない。ただ、今回の統合効果において、買える台数は日本のレベルをはるかに超えた。ドコモさん、KDDIさんを超える量を我々が発注することになる。そのようないい意味での影響が出るのは半年後」
この発言からは、バリエーションを広げたくても、今はAndroidの発注数が少なく、なかなか思うようにいかない孫氏の本音が見え隠れする。実際、関係各社の話をまとめると、ソフトバンクのAndroidは販売台数が他社に比べて極端に少ない。そのような中でラインアップを広げすぎてしまうと、さらに1台あたりの台数が落ち込んでしまう。だからこそ、冬春商戦はAppleに加え、シャープと富士通にメーカーを絞りこむことで1台ずつの売れ行きを伸ばしていきたいという意思が感じられる。ソフトバンクにとって、今は我慢のときと言えるのかもしれない。
ラインアップが手薄だった半面、Androidスマートフォン用のネットワークについては、3社の中でもっとも面白い取り組みをしていた。同社のAndroidはこれまで、Wireless City PlanningのAXGP(TD-LTE)にのみ対応していた。これによってトップスピードは速い半面、利用できるエリアが限られていた。冬春モデルからはここにiPhoneで活用していたFDD-LTEを加え、「Hybrid 4G LTE」を展開していく。分かりやすく言えば、速度の高いAXGPとエリアの広いFDD-LTEを切り替えなら使うことで、両者のいいところ取りをするというネットワークだ。
冬春モデルは2.5GHz帯のAXGPに加え、2GHz帯のLTEにつながる。イー・モバイルの1.7GHz帯を活用する「ダブルLTE」にも対応した。さらに、春からスタートする900MHz帯のLTEも利用できる。都市部でのAXGPは速度に定評があるが、これにFDD-LTEのエリアの広さが加われば、Androidも他社にひけを取らないネットワークを実現できる。2つの方式のLTEを利用するのは、世界的にも珍しく、今年始まったばかりだ。グローバルでもまだまだ端末は少なく、冬春モデルを開発したメーカー関係者に話を聞くと「チップは対応していても、アンテナの配置やチューニングが非常に大変だった」という。これも、端末のラインアップが少なかった原因の1つかもしれない。
発表会ではネットワークについて他社の通信障害の事例を挙げながら、「850日以上重大な事故なし」と胸を張っていた孫氏。確かにそれは、事実だ。ただ、発表会の翌日、ソフトバンクモバイルは2009年から6万3133件の信用情報を誤登録したことを明らかにしている。分かりやすく言えば、きちんとお金を払っていたユーザーを「ブラックリスト」に入れてしまったということだ。この信用情報はローンを組むときや、クレジットカードを新規作成するときなどに、各社が参照するもの。実際、これによってクレジットカードの発行を断られるなどの事例もあったようだ。
信用情報はすでに修正し、影響の出た1万6827人にはダイレクトメールで謝罪したというが、発表会はこの事実を隠したまま進められたことになる。自社の不都合な事実を隠して、他社の障害をあげつらうのはいかがなものか。これでは、不祥事の隠ぺいと受け止められても仕方がない。割賦販売という各キャリアに根づいた販売方式の信用を揺るがすだけでなく、顧客の社会生活に不安をもたらすという点では、信用情報の誤登録も通信障害と同程度か、それ以上に重大な問題だ。
その後、孫氏はYahoo!Japanのイベントで、ユーザーに対して謝罪の言葉を述べている。ただ、謝罪は本来、信用情報が誤登録されたユーザーに向けられるべきものだ。イベントはその場に適切とは言えない。また、ユーザーに安心してもらうには、短い謝罪の言葉以上に、なぜこのようなことが起こったかという経緯と、今後どのような対策をしていくのかを説明する方が大事なのではないか。現時点でソフトバンクの情報公開体制は、不十分と言わざるをえない。
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