SIMロックフリー市場の将来性は高い――「世界一」を目指すHuaweiの勝算:Ascend G6は想定以上に売れた
日本のSIMロックフリー市場に参入し、自社ブランドのスマートフォンやタブレットを続々と投入している中国のHuawei。ファーウェイ・ジャパンの副社長に、端末事業の戦略や、日本のSIMフリースマホ第1弾「Ascend G6」の反響を聞いた。
Huaweiは2014年第1四半期、第2四半期で世界のスマートフォンの出荷台数でSamsung ElectronicsとAppleに次ぐ3位につけており、好調を維持している。9月には「IFA 2014」で6型のハイスペックモデル「Ascend Mate 7」、5.5型の普及モデル「Ascend G7」を発表した。
日本ではSIMロックフリー市場に参入し、6月に「Ascend G6」、9月に「Ascend P7」を発売した。Ascend G6は、LTEスマートフォンとしては安い2万9800円(税別)という価格も功を奏し、特に売れ行きが好調だという。これまでのキャリアビジネスとは異なるSIMロックフリー市場において、Huaweiは日本での存在感を高めつつある。同社は今後、どのように端末事業を展開していくのか。ファーウェイ・ジャパン 副社長 端末統括本部 統括本部長のオリバー・ウー(Oliver Wu、呉波)氏に話を聞いた。
目標はあくまで「世界一になること」
―― スマートフォンの出荷数が世界3位と好調ですが、Huaweiのスマートフォン事業の現状を、どのようにとらえてらっしゃいますか。
ウー氏 3位といっても、弊社が定めた目標には達していません。5月にフランスで「Ascend P7」を発表したときに、リチャード・ユーが「We will not stop」と話していましたが、弊社の目標は、あくまで世界で第1位になることです。
―― なるほど。その1位と2位を追い越すためには何が必要でしょうか。
ウー氏 かつて日本で強力なブランドを持っていた携帯メーカーは、ほとんどが撤退しています。そうした会社は誰かに打ち負かされたのではなく、「自分に負けた」ととらえています。Huaweiも世界3位とはいえ、動きを止めずに研究開発を続け、消費者に満足いただける製品を継続的に出していきたいと考えています。Huaweiグループの研究開発に対する投資額は、年間50億ドルにも達していて、売上の10%以上に上ります。
―― ユーザーに満足してもらえる製品の中心にあるのが、スマートフォンであると。
ウー氏 はい。端末は商品力が一番重要だと考えています。Huaweiは自社(Huawei傘下のHiSilicon)でもチップセットを開発しています。7月に中国で発表した「Honor 6」というスマートフォンは、世界で初めて下り300Mbpsを実現する、LTE Category6のチップセットを搭載しています。このチップもHuaweiが自社開発したもので、アプリケーションプロセッサとモデムが一体となっていて、CPUは8コアの構成となっています。
―― HonorをAscendと別ブランドにしたのはなぜでしょうか。また日本でHonor 6を発売する予定はあるのでしょうか。
ウー氏 Honorは中国のオンラインショップ向けの製品です。日本での発売については社内で検討しているところです。
SIMロックフリースマホに注力し始めた理由
―― ここ最近、HuaweiさんはSIMロックフリーの製品を立て続けに投入していますが、その転機となったことを教えてください。
ウー氏 これまで、日本におけるSIMロックフリーの市場は、全体の1%未満に過ぎませんでしたが、誰もやりたがらないというわけではありません。国の政策や、(MVNOのサービスに)音声プランが少なかったことが理由に考えられます。海外ではSIMロックフリーやEコマースの市場が全体の50%を占めているので、この市場の将来性は高いとみています。
Huaweiは2007年から日本の端末市場に参入しましたが、当時から小売店やMVNOと良好な関係を築いてきたので、6月にAscend G6を発表したときにも、パートナー企業とすぐに協業することができました。実際、6月にはIIJさんやU-NEXTさん、ノジマさんなどがAscend G6の取り扱いを開始し、音声通話対応のSIMパッケージも増えています。
6月にAscend G6をMVNOさんと一緒に展開していますが、まだ完全なオープン(SIMロックフリー)マーケットとは弊社では呼んでおらず、“半オープンマーケット”と呼んでいます。ほかの国のオープンマーケットでは、スマホ単体で売られています。過去1~2年間で、Huaweiの業績が急速に伸びたのは、中東、ラテンアメリカ、中国、欧州の各地域でスマートフォンの単体販売が成功したからです。
携帯端末は、どんどんコモディティ化が進んでいて、価格が重要になってきます。500ドル、700ドル、1000ドルといった高価格帯のスマホに固執することは、賢明ではありません。消費者は賢いので、手頃な価格で必要な機能がそろっているものを買いたがります。価格を見ないで買う人は、全体の10%にも満たないでしょう。今後重要なのは、より大衆に受け入れられる価格のモデルを、いち早く市場に出すことです。
―― MVNOのサービスが増えてきている状況は、Huaweiさんにとって追い風ですよね。
ウー氏 楽観的にも悲観的にもなっていませんが、世界の動向から見ても、今後の大きな戦略になることは間違いありません。個人的な意見ですが、総務省がSIMロックフリーの義務化をして、MVNO市場を盛り上げようとしていることも追い風になりそうです。
端末、ネットワーク、チップセットを自社開発していることが強み
―― 世界でAppleが強いのは、端末だけでなくアプリやサービスをワンストップで提供していることも大きいと思います。Huaweiさんも、そうした取り組みは進めて行かれるのでしょうか。
ウー氏 弊社の2013年のスマートフォンの出荷は5200万台でした。2014年は8000万~1億台になると見込んでいます。(日本では提供していないが)Huawei端末のユーザーにはクラウドサービスも提供していて、ユーザー数は8000万に達しています。スマートフォンのUIはAndroid OSをベースにHuawei独自の「Emotion UI」も採用していますし、チップセットを自社で開発しています。パートナー様と一緒にアプリマーケットも手がけていますが、Google Playが使用できない中国でしか展開していません。
また、Huaweiはインフラベンダーとしては世界最大手です。これが1位と2位のメーカーさんとの一番の違いです。弊社の方がネットワークへの理解ははるかに深いでしょう。クラウドサービスやアプリを使うにしても、ネットワークを介する必要があります。端末、ネットワーク、チップセットを全て手がけていることが、弊社が今後も長期的に生き残り、さらに業績を伸ばす上での一番の強みだと思います。
―― インフラのノウハウが、端末開発にどう生きてくるのでしょうか。
ウー氏 1つ例を挙げますと、Category4対応の現行スマートフォンは、理論値で150Mbps出ると言われているにもかかわらず、実際は下りが10Mbps、上りが2~4Mbpsだったりします。これには(基地局の)アルゴリズムがかかわってきます。弊社がアルゴリズムを最適化することで、下り40~50Mbps、上り10Mbpsという実測値を出すことができます。これらは中国で測定した数字で、第三者機関による正式なリポートも出ています。
―― 日本で発売されているHuaweiのスマートフォンも、それくらいの速度が出るのでしょうか?
ウー氏 少なくとも、他社さんよりは速いです。Ascend G6のチップセットも、自社開発したSoC(システム・オン・チップ)で、最適化もされています。
Ascend G6を第1弾に選んだ理由とユーザーの反響
―― その「Ascend G6」を、SIMロックフリー端末の初号機に選んだ理由を教えてください。
ウー氏 iPhoneが日本で売れた理由の1つは、片手で操作できることだと思います。弊社が独自で調査した結果、日本の5型クラスのスマートフォンは片手では操作できないと感じている人が多いことが分かりました。日本は地下鉄など交通網が発達しているので、電車に乗りながら両手で操作すること自体が難しいのでしょう。日本の通信事業者様との調査では、幅64~66ミリが、日本人の手に合うという結果が出たので、幅65ミリのAscend G6を採用しました。
また、日本のユーザーはセルフィー(自分撮り)をよく使いますが、実際に搭載されているインカメラは画素数が低いものが多いですよね。Ascend G6のインカメラは500万画素で、広角88度です。ビューティーモードを利用すれば、男性も女性も10歳ほど若返ります。500万画素で撮影した写真をFacebookへアップすると圧縮されますが、画質が損なわれることはありません。
―― Ascend G6は、価格の安さも魅力です。
ウー氏 日本では、A社のスマートフォン(iPhone)が事実上最も安いですよね。欧州のオープンマーケットでA社の製品を買うと、単体で7万円くらいかかりますが、日本では月々のサポートや、キャッシュバックもあります。私の友達も、あまりにも安いので、使うかどうかは別として、みんな(iPhoneを)買っています。
Ascend G6にはインセンティブは付きませんが、端末の実力でコストパフォーマンスを上げないといけません。端末はコストで値付けされるのではなく、市場で値付けされるのです。
―― 日本のユーザーからの「Ascend G6」の反響を教えてください。
ウー氏 BCNと価格.comのランキングを見ると、SIMロックフリースマホで1位になったこともあります。日本のユーザーにとっても新しい製品なので、(売れ行きは)予想よりもやや上回っています。また、Ascend G6はシンプルUIも搭載していて、フィーチャーフォンに近い感じでお使いいただけます。日本ではフィーチャーフォンを使っている人が多数いらっしゃるので、使い勝手のよさが評価されたのだと思います。
―― 一方で、5型のフルHDディスプレイを搭載したハイエンドなAscend P7も投入しています。普及モデルだけでなく、ハイエンドも攻めていくのですよね。
ウー氏 ハイエンドとミドルエンド、どちらも出し続けていきます。今年のCEATEC JAPANでは主力製品を発表する予定なので、ご期待ください。
―― 「TalkBand B1」もリリースしていますが、ウェアラブル製品にも注力していくのでしょうか。
ウー氏 ウェアラブルは戦略的な方向性の1つです。スタイリッシュなデザインと使い方は、日本で広がっていくと考えています。
―― ここ最近、通信キャリア向けにはルーターや周辺機器が増えているように思います。スマホはMVNO、ほかはキャリアで、と分けているのでしょうか。
ウー氏 いえ、分けているわけではありません。実際、ワイモバイルさんからは「STREAM S」を出させていただいています。今後も日本のお客様に、さまざまな製品をお届けしたいと思います。
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