価格競争から価値競争へシフトするために――販売代理店に必要なこと:ワイヤレスジャパン 2016(2/2 ページ)
ワイヤレスジャパン2016で、携帯電話の販売代理店向けビジネスセミナーが開催された。セミナーには総務省や携帯電話販売に携わる関係者が登壇し、それぞれの立場で今後の携帯電話販売のあり方を語った。
「顧客満足度を上げる取り組み」がショップの業績アップにつながる
代理店の立場からは、札幌市周辺でドコモショップを7店舗運営する、千代田サービス販売の玉井秀幸副社長が、顧客満足度(CS)を上げる取り組みを紹介した。
ドコモ北海道支社管内の販売代理店の中で、CSの評価が最下位だったという同社。改善の取り組みをきっかけに好転し、2015年1月にはCS評価が道内ナンバー1となった。その後も、支社管内のCS評価の上位に定着している。
CSを上げるため、まずは外部講師研修と覆面調査を導入し、あいさつや笑顔といった基本動作を徹底した。これでスタッフの雰囲気が大きく変わったという。全店で店長がフロアマネージャーを行う体制にしたことも大きなポイントだ。
また、経営層が毎朝、店舗の朝礼に参加したことも、「ナンバーワンになるための後押しになった」と玉井氏は振り返った。
その後はディズニーアカデミーでの研修の導入や、毎日行う電話教室や店舗イベントの強化といった取り組みを行っている。店舗イベントは、新入社員のモチベーションアップにつながっているそうだ。また、ドコモが主催する応対コンテストや改善発表会の大会で日本一を目指すという取り組みも、スタッフにいい影響を与えているという。
総務省の料金に関するタスクフォース以降、来客数が減るなど、ドコモショップの置かれている環境は厳しい。その中で、千代田サービス販売が力を入れているのが外販活動だ。実際には、その場で契約してもらうことは難しいが、「ドコモショップのサービスを紹介し、最終的に来店してもらうこと」が狙いだとしている。
スタッフのモチベーションアップのため、福利厚生ももちろん充実させた。2015年10月にオープンしたドコモショップ札幌八軒店の2階では、社内保育園「トットの森こばと保育園」を運営している。店長やスタッフが女性中心であるため、長く働ける環境を整えるために始めたものだが、現在は外部の子供も受入れている。
「CSに重点を置いたことで、スタッフの意識が変わった。昔は販売がメインでノルマを課して運営し、売りつけているという感覚が退職理由に結びついていた。CSに力を入れた運営は、求職者を惹きつけ採用にも役立っている」と語り、取り組みの効果に胸を張った。
今後のキャリアショップ運営には「リピート意識」が重要
2010年に設立され、全国に拠点を置く研修会社アット・アップの永友佑星社長は、約400店舗で研修を行ってきた経験から、現在の携帯電話販売業界に足りない点を指摘する。
携帯電話販売業界は販売実績だけを追いかける傾向が強く、必ずしも売れている店がお客様から評価されているとは限らない。しかし、行き過ぎたキャッシュバックや0円端末が禁止される状況になってからは、一般的な販売における基本が重要になっていくと永友氏は語る。永友氏は「接客業で大切なのは、数字では表せない定性的な面。あいさつや店舗のきれいさなどが、それを作っていく」とし、基本の向上を研修の重点に置いていることを説明した。
だが、「携帯電話業界の接客レベルは低下の傾向がある」と永友氏は警鐘を鳴らす。離職率が高く人材不足であるため、従業員満足率(ES)が低下し、待ち時間が長いためにCSも低下している。キャッシュバックや0円端末がなりを潜めた2016年2月以降は、特にユーザーが店舗に繰り返し来店する「リピート率」が低下していると指摘。永友氏はその要因を「顧客の購買モチベーションが大きく変化しているから」であると分析する。
携帯電話業界の成長期は端末のスペックが、成長が一段落した後はキャッシュバックなどの外的条件がユーザーの購買意欲につながった。しかし、端末スペックの大幅向上もキャッシュバックもなくなった現在は、ユーザーがリピートしづらい状況になっている。
「お客様は、商品やお店の人に対して好印象を持つとリピート率が上がる。BtoCマーケットは成熟すると、ここに尽きる」と永友氏は説明。販売員は「リピート意識」を持つことが重要だが、携帯販売業界はこの意識が他業種に比べて圧倒的に足りないという。さらに、一般的なBtoC知識も不足していると指摘する。「今や携帯電話のキャリアショップは、1つ10万円の商品を売っている販売店。10万円の商品を売っているお店のスタッフが、実はおじぎの仕方を知らない。この業界の現場力が低いといわれる一番の原因になっている」(永友氏)のだ。
永友氏は「1個10万円の商品は、普通、お客様より先に素手で触らない」「デモ機は指紋だらけで、電源が入っていなかったりWi-Fiにつながっていなかったりして10万円の価値を体感できない」「複雑な接客が求められているのに、ロールプレイングが少なすぎ、自己流の接客になっている」など、次々と現状のキャリアショップの問題点を指摘する。
一方で永友氏は、一般的な商売の知識が身に付けば、もっと客に喜ばれて報われ、成果が上がると励ます。「今後は売れるスタッフ、売れるお店ではなく、買いたくなるスタッフ、買いたくなるお店になることがポイント」とまとめ、朝礼の改善や社内にCS改善部門を持つこと、リーダー育成、フロアオペレーションの確立が必要だと提言した。
携帯電話業界は「価格競争」から「価値競争」へシフトしなくてはならない
最後に、野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部の上席コンサルタントの北俊一氏が登壇し、「激動の業界変革を生き残るための鍵は何か?」と題した講演を行った。
「2016年はケータイ業界の構造改革元年」だと述べる北氏は、5月26日に開催された総務省の携帯電話サービスに関するタスクフォースでも話題となったキャッシュバックや0円端末の「復活」ついて語った。
この割引は、キャリアではなく販売代理店の判断で行われている。独占禁止法があるため、代理店が値下げして売ることを止めることはできないが、北氏は「今回のガイドラインは価格競争から、商品、サービスの持っている価値の競争へとシフトするために作られている。キャッシュバックがなければ売れないという凝り固まった考え方から脱却する時期が来ている」と述べ、代理店に対して意識改革を促す。
「携帯電話は生活に欠かせないライフラインで、常に時代の最先端を走り、話題にことかかない。10年後、20年後も変わらないと思う」と北氏は語り、「こんな面白い業界で仕事ができる幸せと、ライフラインの一翼を担っている責任を、関係者はもう一度、強く認識すべき」だと締めくくった。
関連記事
- 特集:ワイヤレスジャパン 2016
「HLR/HSSの開放は必要」「競争から協創へ」――ビッグローブのMVNO戦略
「ワイヤレスジャパン2016」で開催されたMVNOビジネスフォーラムの基調講演で、ビッグローブ 執行役員常務 佐藤 博氏が登壇。MVNO市場の課題とビッグローブの取り組みについて講演した。「販売ルート」「顧客基盤」「コンテンツ」――レンジャーシステムズ・玉井氏が語るMVNO成功の条件
さまざまな業種からの新規参入が相次ぐMVNO業界。ワイヤレスジャパン2016の「MVNOフォーラム」で、レンジャーシステムズの玉井康裕氏はMVNO業界の現状と、今後業界で生き残るために求められるサービスについて語った。総務省タスクフォースを検証するも「理解不足」「難癖」が続出――現場を知らない人たちに、消費者のための議論ができるのか
総務大臣からの携帯電話料金に関する「要請」に対する、各キャリアの対応状況を確認するタスクフォースの会合が総務省で開催された。会合は中身のない議論に終始。総務省はもっとやるべき仕事があるのではないだろうか。「電気通信事業法」の改正で何が変わるのか?――ドコモに聞く、MVNOとの取り組み
「電気通信事業法」が5月21日に改正され、これまでドコモに課されていた「禁止行為規制」が緩和される。これによってドコモのMVNOに対する取り組みはどのように変わっていくのか。またMVNOにとってはどんなメリットがあるのか。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.