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見通しのいい場所なのに“圏外”──携帯電波を妨害する装置は違法か?携帯電話の普及に伴い,マナーを無視した迷惑な通話が目立っている。そんな通話を妨害しようと,市販されている“携帯電波妨害装置”を利用するケースが増えているようだ。安いものだと2000円を切る価格で入手できるこの装置,一方では“通話の妨害は違法では?”という声も聞かれるが,どうなのだろう?
携帯電話が使えない喫茶店!?仕事のやりとりをすべて携帯電話で済ますM氏は,電車や喫茶店など,どんなところでも常に着信できるように携帯電話と,地下に強いPHSの2台の電話を持ち歩いていた。「仕事をする上で,かかってくる1本の電話が,どれだけの価値を持っているか……」というのがM氏の口癖だった。 ある日,新宿付近のある喫茶店で電話をかけようと携帯を取り出すと“圏外”表示になっているのに気がつく。おかしいな,とPHSを取り出しても圏外になっている。あわてて喫茶店を飛び出しても圏外のまま。入り口から3メートルほど離れてみて,やっと通話可能になったという。 しかし,この喫茶店の周りには目立つ障害物はなく,電波が届きにくくなるような環境ではない。地下やデパートなどの室内ならまだしも,見通しの良い場所で電波が届かなくなってしまったことを,M氏はとても不思議に思った。 実はこの喫茶店では,市販されている携帯電話の電波を妨害する装置を複数台店内に配置していた。 この喫茶店のマスターによると「狭い店内で,無頓着に大声で話されると,周りのお客様が不快になる」。マナーのない客にうんざりした末で導入したとのこと。 確かに携帯電話やPHSの利用者が急速に増えたことで,モラルなき携帯電話利用が問題となっている。電車や映画館の中で鳴り出す携帯電話の呼び出し音に嫌な思いをしたことは誰にでもあるだろう。 しかし実際妨害された時のことを考えると,さまざまな疑問が生まれる。緊急時に連絡が取れなくなることはないだろうか? そもそも通話を妨害するほどの電波を出すことは違法じゃないのだろうか? 妨害装置の電波は本当に“微弱”なのか?携帯電話等の通信を抑止する妨害装置は,携帯電話やPHSが使用するものと同じ周波数帯の妨害電波を発信し,携帯電話が受信する電波状況を悪くすることにより、装置周辺で携帯電話などが使えないようにするものだ。 この装置が設置されると,出力にもよるが数メートルから数十メートルの範囲で,携帯電話やPHSは“圏外”の状態になり、発信も着信もできなくなる。 これだけの妨害電波を発する装置が,無許可で入手できるのだろうか? と疑問に思い,実際に販売されている商品を手に取ってみた。パッケージには「この妨害電波は免許のいらない規定値以下の微弱電波です」と書かれている。 しかし本当なのだろうか? 携帯電話の電波自体に免許が必要なのに,それを妨害する電波が微弱とは考えにくい。 携帯電話使用抑止装置に関する詳しい情報をWeb上で配信している「総務省 東海総合通信局」では,このようにコメントしている。 「携帯電話などの基地局からの電波の強さは場所によって異なるが,効果的に携帯電話などの通信機能を抑止しようとすると,最も電波の強い携帯電話の基地局からの電波に対抗できる,強い妨害電波を発信できるよう設計しなければならない。結果として,このような設備は電波法の規定でいう“微弱”を超えることになり,免許が必要だ」 完全に通話抑止機能を満たす未許可抑止装置は違法結局のところ,携帯電話やPHSの通話を抑止する機能を“完全に”満たした抑止装置は,許可を得なければ違法だということになる。 なぜ“完全に”にこだわるかというと,違法かどうかは,実際に測定してみなければ分からないからだ。機能を満たさない不完全な抑止装置が存在する可能性もあるからだ。 一方,機能を満たす抑止装置は,かえって何らかの弊害を引き起こす可能性があるのではないかという不安が生じる。そんな疑問に,東海総合通信局は「装置によっては他の電子機器に障害を与えるおそれがある」と答えている。 ところで,実際に妨害装置の許可が得られているのは,使用の目的が明白なコンサートホールや劇場,図書館などに限られてくるようだ。その場合でも,携帯電話などの通信が抑止されていることを利用者から承諾を取る必要があるなど,慎重な手続きが必要となっている。 なお,免許を受けずに使用した場合は,「不法無線局として電波法違反(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)に処せられる」(同局)とかなり重い罪となる。 迷惑通話根絶のためのモラル育成が望まれるしかし迷惑通話に関するマナーの低さやモラルについての声は大きくなるばかりだ。 最後にこんなエピソードを紹介しよう。 満員電車で1時間近く通勤するA氏は,電車内のマナーのない通話に嫌気がさし,市販の携帯電話妨害電波発信装置を1850円で購入した。適用範囲は4メートルと用途によっては十分な性能を持つ。 しかしA氏は一度も使うことはなかったという。なぜなら……「もし妨害したのが私だと分かったとき,どうなるか怖くてスイッチを押せなかった」からだという。 A氏が買った妨害電波発信装置は,正体をごまかすために“携帯電話”そっくりの形をしている。しかしA氏は,「それでも気づかれてしまうのではないか?」という恐怖感からスイッチを押せなかった。 いったい,迷惑通話に対抗する方法はないのだろうか? [増田(Maskin)真樹,ITmedia] 関連リンク 連載バックナンバー Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved. ![]() モバイルショップ
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